公開中
5月ー太陽の下で②
5月編②です!
文字数結局いつも通りになってしまいました、、すみません、、
キーンコーンカーンコーン……。五月の突き抜けるような青空の下、ついに体育祭の当日がやってきた。グラウンドには万国旗がはためき、スピーカーからは大音量のマーチが流れている。女子校の体育祭は「お淑やか」なんて言葉はどこへやら、ハチマキをきつく締め直した女子たちの熱気で、空気ごと燃え上がりそうだった。うちらのクラスは、葵の作った「全員リレーの無敵の配置」が見事にハマり、午前中の種目を終えた時点でなんと暫定2位。『普段はのんびり、やる時はやる!』の目標通り、みんな驚くほどの集中力を発揮していた。「――よし、残すは最終種目、クラス対抗選抜リレーだけね! みんな、最後まで全力でいくわよ!」体育委員の掛け声に、クラスの円陣が「おー!」と地鳴りのような歓声を上げる。私の心臓は、さっきからバックバクと嫌な音を立てていた。プレッシャーがえげつない。特訓の成果でタイムは縮まったけれど、本番で失敗したらどうしよう。「舞ちゃん」ガチガチになっている私の前に、すっと葵が歩み寄ってきた。葵の手には、うちのクラスのカラーである黄色いバトンが握られている。「大丈夫だよ、舞ちゃん。この2週間、誰よりも走った舞ちゃんを、私は一番近くで見てきたんだから。自分を信じて、前だけを見て走って」葵はいつものふわりとした、優しい笑顔を向けてくれた。それだけで、私の胸の奥のモヤモヤがすっと消え去り、ハキハキとした特攻隊長の度胸がカチリと呼び覚まされる。「当たり前じゃん! 葵の『最強アンカー育成計画』をナメないでよね。ごぼう抜きして1位でゴールしてあげる!」バシッと葵とハイタッチを交わし、私はアンカーの待機ゾーンへと向かった。◇「位置について、よーい……バン!!」ピストルの音とともに、選抜リレーがスタートした。グラウンド中に割れんばかりの悲鳴と歓声が響き渡る。第一走者、第二走者、第三走者――! うちのクラスの精鋭たちは、葵の計算通りの激走を見せ、なんとトップと僅差の「2位」でバトンを繋いできた。「長谷川ーーー!! 頼んだーーーっ!!」第三走者の子が、必死の形相で黄色いバトンを突き出して迫ってくる。私は特訓通り、前を向いたまま、左手を後ろに大きく広げた。(今だ――!)バトンが手のひらに収まった感覚と同時に、地面を強く蹴り出す。中学受験のブランクなんて関係ない。葵と2人きりで走った放課後のグラウンドを思い出しながら、私は猛スピードで加速していった。前の走者との距離が、ぐんぐんと縮まっていく。「いける……! 抜ける……!」と確信した、まさにその時だった。(――え?)直前のコーナーを曲がりきろうとした瞬間、信じられないハプニングが起きた。すぐ目の前を走っていた1位のクラスのアンカーが、急なコーナリングに耐えきれず、派手にバランスを崩して目の前で転倒したのだ。「きゃっ!?」すぐ真後ろを走っていた私は、避ける間もない。まともに突っ込めば大クラッシュだ。私はとっさに上体を低く沈め、急ブレーキをかけながら、転んだ子の横をすり抜けようとした。――しかし、現実はそこまで甘くなかった。急激に体勢を変えた私の右足首が、グキッ、と鈍い音を立てて内側に折れ曲がった。「う、あ……っ!?」激しい激痛が走り、視界がぐらりと歪む。そのまま私は、赤土のトラックの上へ盛大に五体投地するみたいに突っ込んでしまった。手のひらや膝が地面に擦れてジリジリと熱い。「長谷川さんが転んだ!?」客席から悲鳴が上がる。早く立ち上がらなきゃ。バトン、バトンはどこ!?砂まみれになりながら必死にバトンを拾い、立ち上がろうとしたけれど、右足に力を入れた瞬間にカミナリが落ちたような痛みが走って、また膝をついてしまう。その間に、後ろを走っていた走者たちが、砂嵐のように私の横を猛スピードで追い抜いていった。最後は、引きずるような足取りで、なんとか最下位でゴールラインを割った。うちらの初めての体育祭は、最悪の結末で幕を閉じた。◇夕方、体育祭の後片付けが始まっても、私は教室に戻る気力が湧かなかった。放課後の誰もいない渡り廊下のベンチに座って、右足の冷えピタを見つめる。手のひらは擦り傷だらけ。総合順位も私のせいでガクッと落ちてしまった。ガサガサ、と少し離れた教室の窓から、クラスの女子たちの話し声が風に乗って聞こえてくる。「……結局、リレー最下位だったね」「まぁハプニングだし、転んじゃったのは可哀想だけどさ。でも、あんなに『誰もやらないなら私がやる!』って大口叩いてアンカー引き受けたのに、これじゃ意味ないよね」「最初は結衣ちゃんが走る予定だったし、結衣ちゃんだったら転ばずにうまく避けられたんじゃない?」「だよねー。ちょっと調子に乗りすぎだったのかも……」私の前では「どんまい!」と言ってくれた女子たちの、容赦のないごちゃごちゃとした本音。やっぱり現実は甘くない。自分が情けなくて、悔しくて、じわじわと涙がこぼれそうになった。その時、ベンチのすぐ横の物陰で、ハッと小さく息を呑む気配がした。見ると、いつの間にかそこに葵が立っていた。葵は両手でスクールバッグをぎゅっと胸に抱きしめ、顔を真っ白にさせて、震える瞳で教室の窓を見上げていた。「……あ、あの……っ、みんな……」葵は、教室に向かって小さな声を絞り出そうとしていた。舞ちゃんは悪くない。誰も悪者にしないためにアンカーになってくれたんだ、と、言い返そうとしているのが分かった。だけど、人前に立つのが苦手で、いつも周りの空気に合わせてしまうおとなしい葵だ。「嫌だ」の一言すら言えない彼女にとって、クラスの女子グループに意見するなんて、怖くてできるはずがなかった。葵の頑なな唇はぶるぶると震え、喉の奥で言葉が詰まって、涙がポロポロと溢れ出してしまっている。自分のことじゃないのに。私のために、そんなに怖がりながらも、必死に戦おうとしてくれている。その姿を見た瞬間、私の胸の奥のモヤモヤが、すうっと温かいものに変わっていった。「いーのよ、葵」私は、驚くほどハキハキとしたいつもの声で、葵を呼び止めた。驚いて振り返った葵の元へ、私はケンケンで近づくと、彼女の制服の袖をクイクイと引っ張った。「言わせておきなよ。事実、私がどんくさくて負けたのは本当なんだからさ」「でも……っ、舞ちゃん、は……みんなのために……っ」葵は声にならない声で泣きじゃくる。私はその涙を、擦り傷だらけの手のひらで、ちょっと雑に拭ってあげた。「それにさ」私はニカッと、いつもの不敵な笑顔を浮かべてみせた。「今回は負けちゃったけどさ、これでお互いの得意と不得意がハッキリ分かったじゃん。私は特攻隊長のくせに、本番にちょっと弱い。葵はブレインのくせに、私のためにこんなにボロ泣きして悔しがってくれる。……ね、うちら、まだまだ伸び代(しろ)があるってことだよ」葵は涙で濡れた目を丸くした。それから、私の泥だらけの顔と、不器用な笑顔をじっと見つめて――やがて、堪えきれなくなったように、涙を流しながらも「ふふっ」と小さく吹き出した。「もう……舞ちゃんは本当に強いね。悔しいはずなのに、どうしてそんな風に笑えるの」「そりゃ、私の相棒がこんなに私のために泣いてくれたからね。元気出ちゃったわ」葵は涙を手の甲で拭うと、いつもの、ううん、これまでで一番愛おしそうな、ふわりとした優しい笑顔を咲かせた。「……うん。じゃあ、次の『リベンジ作戦』、今から立てなきゃね。6年間のうちに、絶対にみんなを見返して、最高の1位を取ろう?」「望むところじゃん! あ、でもその前にさ……」私は自分の右足をトントンと叩いた。「足くじいちゃって1歩も歩けないから、校門までおんぶして、私の最高のブレインさん!」「え……っ? ちょ、ちょっと、舞ちゃん、私おんぶなんて……っ」葵は急に焦ったようにちょっと変な顔をして、両手を振って後ろに下がろうとした。だけど、いつもの冗談だと思っている私は「いいからいいから! ほら、特攻隊長からの命令!」と笑いながら、葵の小さな背中に無理やりガバッと覆いかぶさって強行突破した。「わ、わわっ!? 舞ちゃん重いよぉ……っ!」「あはは! 鬼ブレインの特訓のせいで筋肉がついたんだよ。ほら、いちに、いちに!」夕日に照らされながら、うちらは賑やかに並んで……というか、私がほとんど引きずられるようにして校門へと向かう。「もう、舞ちゃんは本当に強引なんだから……」私の下で、葵が小さくため息をつきながら苦笑いした。私は「へへ、ありがと!」と呑気に笑いながら、葵の細い肩にすっかり体重を預けていた。うちらの初めての体育祭は、夕暮れのグラウンドに2人の賑やかな笑い声を残して、賑やかに暮れていったのだった。(つづく)
読んでいただきありがとうございます!
もう少し文章綺麗にまとめたいんですけどなかなか上手くいかず、、がんばります、、