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15 変神が乱入しました
深夜、天気は曇天。ゆるやかな曲線を描くように反った丘に、黄色いおしゃれなパーカーを着た男が立っていた。
男は曇天に向かい、大袈裟に腕を広げており、まるでこの曇天を歓迎しているように見える。
ここはキリンジのいる異世界__ではなく、現実世界であった。
バサッ、強風が吹き荒れる。
パーカーのフードがなびき、右肩に垂らしていたポニーテールが揺れた。
男は一瞬だけ眉をひそめたかと思えば、すぐに落ち着く。
「さて、実験の時間だ!」
すると、突如として曇天の空が暗闇に包まれる。
丘がさらに陰り、真っ黒な雲がゴロゴロと鳴り始めた。どうやら雷雲が現れたらしい。
それにしても、男はこんな悪天候でどんな実験を行おうとしているのだろうか。
ゴロゴロ、またしても雷鳴は不機嫌そうに唸った。
この緊張感、まるで我慢の限界を迎えて今にも噴火しそうな火山のよう。
また、こんな複雑な例えで雷について表現しなくとも、それは寸暇もなく訪れた。
____ピカッ、稲光り。
闇を二つに切り裂き、男を真っすぐ貫く。
おそよ人体の許容を大幅に超えた電圧、男はしばらく身体を震わせた。 かと思えば、何も無かったように笑みを崩さない。
雷によって燃やされた雑草が黒煙となって、強風と豪雨にかき消される。
男は楽しそうに笑った。
「よしよし、まだいけるぞー!!」
さらなる雷を求める男。間違いない、この男は変人だ。
同時に、実験の為なら雷に打たれるぐらいどうってことないという精神の持ち主でもある。
そして、男は数えきれないほどの雷を浴びた。
何度も雷に貫かれ、身体を震わせ、限界に近づいたであろう男の身体が、ついに目に見える形でおかしくなる。
「あははっ、すっげー!」
人間電球、といえば伝わるだろうか。
男の身体からは光がとめどなく溢れ出していた。まるで過激な大道芸人。
にも関わらず、男は狂ったように笑い続ける。実験の結果が分かったのがそんなに嬉しいか。
だが、どんな変人にも限界というのがある。
度重なる電撃を受けた男の身体がまたしても光ったかと思えば、
____ドカァン。
尋常じゃないほどの電気を蓄えた男の身体が、轟音と共に大爆発を起こした。
辺りに閃光を撒き散らし、男は木っ端微塵。即死だった。
爆発で上がった黒煙は雨風にかき消され、曇天は次第に綺麗な夜空に移り変わっていく。
今日も綺麗な満月が、この町を落ち着かせるために姿を現した。
翌日、この町はとある噂で満たされる。
その噂というのが、丘のてっぺんにUFOが着陸したというもの。
おそらく昨晩、丘を眺めていた人が広めたのだろう。
しかし、本当はあの丘に宇宙人よりも人間から程遠い変人がいたということは、もう誰も知る由もない。
<そして、雷に撃たれまくった男__ネイケイジは死んだ。>
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「へ?」
変人、ネイケイジは目を覚ますなり、間の抜けた声が漏れる。
妙にだるい体を起き上がらせ、周りを見回した。
そこら中に雲の床が際限なく広がっており、雲海とはこの場所のことを指すのだろう。
「なにここ!? 雲!?」
ネイケイジはまたしても驚いた様子で辺りを見回したが、見えるのは雲と青空のみ。
人はどこにも見当たらない。
「まさか、ここ……天国!? いや、きっとそうだ!!」
ネイケイジは一人で納得したかと思えば、倒れるように寝転がった。
ここらの雲はふわふわしており、同時にバネのような弾性力を併せ持っている。
寝転がるには最適な場所だ。
しばらく、至福の表情を浮かべて転がっていたネイケイジだったが、ゴツン、と何かにぶつかった。
感触からして、それは人のようだった。
ネイケイジはぶつかった方向を見る。
そこには、白い布を纏っただけの貧相な恰好の老人が立っていた。しかも木の杖を携えている。
「おっさん、誰?」と寝そべりながら聞く。
「わし、神様じゃ」
全てを包み込むような笑顔を見せながら、老人は神様と名乗った。
これにはネイケイジも笑みを隠せない。
「へぇ~、おっさんも神様なんだ!」
「……ん? おぬしも神様なのか__」
老人が言い終えぬうちに、ネイケイジは身を乗り出す。
「え、知らないの!? 僕『雷神』だよ! まあ、正確にいえば雷神に身体を貸した人間だけどね」
「でも、おぬし、雷に撃たれて死んでなかったか?」
「まあ、あれはあれだよ。予想外の結果ってやつ!」
ついさっき爆死したのにも関わらず、その経験を元気よく振り返るネイケイジに老人は「ふぉっふぉっ」と苦笑する。
ネイケイジもつられて「あはは!」と笑い出した、
かと思えば__ドゴッ、鈍い音が老人の腹から響く。
ネイケイジの拳が、老人の腹を躊躇なく捉えていたのだ。
老人は後ろに吹き飛ばされ、痛む腹を片手で抑える。
「な、何をするんじゃ……!」
老人は全身が痺れたような感覚に苦しみながら、ネイケイジをカッと睨んだ。
一方、ネイケイジはこれまでにない真剣な表情で老人を見つめている。
「ね~、おっさん、何か隠してるでしょ? すごく裏があるように見えるんだけど、違う?」
老人は何故分かったんだ、という表情を浮かべた。
ネイケイジがそれを察す。
「やっぱりね。じゃあ、早く言ってよ。面白そうだったらやったげるから!」
そして、いつもの笑顔に戻るネイケイジ。
老人は杖に頼りながら、よろよろ歩いて、ネイケイジに近づく。
未だに身体が痺れているみたいだ。
「……おぬしに頼みたいことがある」
「なになに?」
「実は、とある異世界に行ってほしいのじゃ……」
「……異世界? なにそれ?」
老人が重々しく木の杖を上に向ける。
「端的に言うなれば、この宇宙のどこかにある惑星じゃ」
「へぇ! 面白そう!」
ネイケイジは無邪気な笑顔を浮かべた、
「んで、その異世界ってところで、僕は何したらいいのさ?」
「いや、ただ行くだけでいいのじゃ……」
「……行くだけ?」
一瞬、怪訝な表情を浮かべたネイケイジ、
__ドゴッ、またしても拳が老人を捉えた。
「うぐっ!」
流石の老人も前に崩れ落ちてしまう。
ネイケイジは真剣な眼差しで、倒れている老人を見つめた。
「ねぇ、まだ隠してるでしょ? 身体が麻痺して言うこと聞かなくなる前に早く言ったほうがいいよ」
老人は伏しながら、半ば諦めのため息を吐くと、言いにくそうに口を開く。
「おぬし、キリンジを知っておるな?」
「もちろん!!」
スイッチを切り替えたように、ネイケイジは目をキラキラさせた。
「ボクの先輩だよ!! んで、キリンジ先輩がどうしたのさ?」
「実はな、その異世界に、キリンジがいるんじゃ……」
「え、ホント!? じゃあ、僕もその異世界に行く! どうやって行くのさ!?」
忙しなく昂っているネイケイジに呆れながら、老人は威厳を戻すように立ち上がる。
「そう焦るでない、今からホールを創る」
老人は右手でパチッ、とスナップ音を響かせた。
すると、老人の右となりに黒い穴が生まれる。
それは、大きさ以外はちゃんとしているという意味で、まるでおもちゃのブラックホールのようだった。
ネイケイジはこのホールに目と心を奪われている。
「このホールの先に、キリンジ先輩がいる……!」
興奮でヨダレがじゅるりと垂れた。
早速、ネイケイジが飛び込もうとしたのだが、あらかじめ老人がホールを遮っていたせいで通れない。
「なに、おっさん? 先輩が僕を待ってるんだけど!」
「その前に聞いてくれぬか」
「いや、聞かない!」
「ほんの少しで終わる」
「終わらない!」
「ちょっと待ってくれぬか……」
「待たない!」
ガン開きの目で意志を貫き通すネイケイジ。
これ以上こいつを刺激するのはマズいと思った老人は渋々ながら道を譲った。
ホールへの扉が退かれ、異世界に行くためには、あとは飛び込むのみ。
しかし、まるで躊躇なし。
ネイケイジは「えい!」と両足からホールに飛び込んだ。
ホールはネイケイジを水洗トイレみたいに吸い込むや否や、あっという間にネイケイジは死後の世界から姿を消した。
ふぅ、老人は一番大きいため息を吐く。だいぶ疲弊しているようだ。
「全くキリンジのやつ……凶暴な後輩を作りおって……」
老人は未だに痺れる腹をさする。
すると__バチッ、さすった手に強力な静電気が流れて、思わず老人は手を引っ込めた。
「あやつ……拳に電気をまとわせて、わしを殴りおったな……さすが『雷神』を名乗るだけある」
そして、老人こと__神様は、雲のベッドで眠るように突っ伏した。