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17 変人VS変神
雷の檻に閉じ込められたキリンジに近づいてくる、妙に上機嫌な男。
どうやら、キリンジはこの男を知っているらしい。
「はあ」キリンジがため息を吐いた。
「ここにいるということは……お前も死んだのか?」
「はい! 実験のつもりで自分に雷を落とし続けてたら、いつの間にか爆死してしまったんです!」
「アホだな」
「でも、こうやって先輩に会えたので、死んでよかったです!」
「オレにとっては最悪だ」
キリンジは目の前の男のアホさに呆れて物も言えなかった。
「……それより、この檻さっさとどうにかしろ」
「え~! いいじゃないですか~! せっかくの再会なんだから、もっとドラマチックになりましょうよ~!」
「黙れ、アホ」
「もう先輩! ボクの名前はアホじゃないですってば~! ちゃんと『ネイケイジ』って名前があるんで、そっちで呼んでくださいよ~!」
「いや、その名前でお前のことを呼んだら、負けた感じがするから無理だ」
「え~、何でですか~!? 先輩にあやかって必死に考えた名前なんですよ~!」
「『あやかって』って……オレでゲン担ぎするな、アホ」
仲がいいのか悪いのかはっきりしない二人が雷の檻で言い合っていると、ずっとその様子を見ていたエノコが口を挟んでくる。
「ねぇ、いったい何が起きたの? 雷が落ちてきたと思ったら、キリンジが閉じ込められてるし……」
檻の外にいる男__ネイケイジが醒めたような表情でエノコを見た。
「あの女の子、誰?」
さっきとは打って変わって線を辿るような平坦かつ冷たい声で、キリンジに問いかける。
「仲間だ」
返事に寸暇はない。
この返事にネイケイジは感情が追い付けず、今の感情をどう言葉にしていいのか分からず、手探るように続けた。
「な……か……ま? あの……女の子が? ボクを差し置いて?」
「おいおい……」
嫌な予感がした。ネイケイジが尋常じゃないほど震えている。
その目つきには、純粋な嫉妬しか見られない。嫉妬のあまり、その目は剥き出しだった。
「先輩、どうしてですか? ずっとボクは先輩に認めてもらうために頑張って来たのに、なんで、なんで、こんな女の子なんかと仲間になっちゃってるんですか? ねぇ、なんでですか?」
半ばヒステリックになりながら、自らの妬みを排出するかのごとく早口で捲し立ててくる。
そして、それらを全て右耳から左耳に逃していくキリンジ。
どうやってこの場を凌ぐかで頭が一杯だった。
この男を刺激しないように、どう言いくるめるのが正解なのか。
そして、思いついた。
「言っとくけど、勘違いするなよ。お前が努力してるのはオレも分かってる。お前を仲間にしないのには、ちゃんとした理由があるんだ」
「り、理由?」
「ああ、お前を仲間にしない理由は、ただ一つ__」
緊張感が辺りを埋め尽くす。
雨の降る音だけが静寂に差し込み、ネイケイジがゴクリと唾を飲んだ。
「お前、オレより遅いだろ? 前に戦ったときだって、オレはお前を速度で圧倒していた。オレは遅いヤツを仲間にしたくない。足手まといだ。|こいつ《エノコ》はな、オレと同じぐらい速いから仲間にしたんだよ」
これらはもちろん真実ではない。ただのその場凌ぎだった。
果たしてネイケイジの反応はというと、
「……なるほど!」
何とか納得してくれたようだ。
しかし、このようなその場凌ぎでネイケイジが折れるわけもなく、逆に真っ向からそれに抗ってきてしまった。
「じゃあ、先輩、手合わせお願いします! それでボクが勝ったら、ぜーったいに仲間にしてくださいね! 約束ですよ!」
考えうる限り最も嫌な方向で上機嫌になったネイケイジだったが、こうなったらもう止められないのは、キリンジが一番分かっている。
はあ、やけに重いため息が吐かれた。
「……まずは檻を解いてくれ、これじゃ戦えないだろ」
「もちろんです!」
すると、雷の檻は形を崩し、中にいたキリンジを解放する。
雨は強くなり、次第に豪雨となった。地面がぬかるみ、自然と足が沈んでいってしまう。
限りないほどの悪天候だったが、それはこの勝負を諦める理由にはならない。
「おい、エノコ! 勝負の合図は任せた。好きなタイミングでやってくれ」
「……うん、分かった!」
豪雨にかき消されないように声を張る。
「あ~いいな~! 名前で呼んでもらえて~!」
ネイケイジが羨望の眼差しで見つめた。
その目の奥で雷が弾ける音がする。
黄色のポニーテールの先っぽから、滝のように水が流れ落ちた。
キリンジが地面に両手を置き、四足歩行の態勢を取ったが、随分ぬかるみが酷く、両手の踏ん張りが効かない。
つま先を地面に引っ掛けようとしても、沈んでそれどころではなかった。
これでは走り出しは期待できそうにないので、それ以外でカバーするしかない。
「では、よーい……!」
間もなく、真剣勝負が始まる。
エノコの角の先っぽから、ポタッと水滴が落ちた。
「スタート!!」