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沈黙のMars#4
甘井の件があってから、『Mars』は警戒態勢を敷いた。
それと同時に、四天王が動き出したという情報も入った。
四天王とは、『Mars』における実力者のことである。
諜報員として裏社会で名を馳せ、認められたもののみが選ばれる4人。彼らは組織に絶対の忠誠を誓っている。いわば組織の犬…
「エル。」
考え事をしながら、宿舎に向かって歩いていると、懐かしい声が聞こえた。
「ギル。」
ギル。という名を持つ同期の諜報員が駆け寄ってくる。こうして会うのは久しぶりだ。
「いや〜、いつぶりだ?こうして話したのは。」
「さあな。お互い任務もあったし…」
あたしは自然と微笑む。
「久しぶりにどうだ?一杯。」
ギルは唇の端を釣り上げてニヤリとした。こういうところは変わっていない。
「ああ、悪いけど、酒は飲まないんだ。」
へぇ。と、感心したように言う。コーヒーなら良いんだが…と心の中でつぶやいた。
「変わらねぇな!」
シュッと空を切る音が聞こえ、思わず飛び退く。
ギルはバタフライナイフを取り出していた。
「なんのつもりだよ!?」
「お前を試す。それだけだ。」
吐き捨てるようにそう言うと、ギルは滑るように忍び寄ってくる。昔から、こういう戦い方をするやつだった。
ナイフを避けながら逃げるか…?いや、追いつかれるな。
だが、何でここであたしを試す必要が…?
考えている間も攻撃は止まらない。
いつしか、あたりに人だかりができていた。
あたしは幼少期に新体操を習っていた。そのため、体は柔らかいほうだ。ナイフの刃を避けるくらいなら、余裕だろう。だが、長期戦には向かない。体力には、限界がある。
ためらうこと無く襲いかかってくる刃をかわし、ギルを傷つけずにこの状況を脱するには…あれしか無い…
あたしはギルの真正面に立ち、その動きを見逃すまいとした。
ギルはというと、感情のこもっていない目で虚空を見つめている。
突然彼の残像が見えた。ナイフが銀色に輝く。
見える。と思った。あたしだって進歩している。
大きく横に凪ぐ。俗に一文字斬りと呼ばれる大技。威力も範囲も申し分ないが、隙は大きい。
腹ががら空きだ!
自分の拳を繰り出す。手に感触が伝わってくる。
次の瞬間ギルは体勢を崩し、大きく吹き飛んだ。
「なんのつもりだよ!」
「へへへっ。強さは申し分ないな…。」
ギルがヘラヘラと笑う。悪魔のようだった。
「総司令がお前に目をつけた。次期四天王候補だとよ、おめでとう。」
小馬鹿にしたような響き。この数年が彼の心を変えてしまったのだろうか?以前の彼は、こんなことはしないはずだ。
「お前に一つ教えておこう。」
T.Bヴァロン。
そうギルは言った。
「甘井とやらが属している組織のことだ。俺達にイタズラを仕掛けている。」
ギルは砂埃を払って去っていく。
「甘井を倒せ、エル。」
T.Bヴァロン。それが敵の名前か…。
あたしはその名を、心に刻んだのであった。
次回予告!『眠り王子』