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Those crazy people 頭のおかしいやつら7
さいきん平和?こういうときがあっても素敵なのですきっと
学校から帰ってくるとすぐ、ミハエルは癇癪を起こした。リュックが蹴飛ばされ、机の上にあったティッシュケースとクリップとマグカップが払い落とされた。泣いているのかただ叫んでいるのか分からない声をあげて彼は暴れた。ひどい荒れようだった。
私は何があったのか尋ねようとしたけれど、鼓膜が痺れる勢いの彼の声に辟易して諦めた。そうして、蜂蜜パイを作ることにした。
パイ生地にラップを被せてしばらく放置し、柔らかくなったらバターと砂糖を乗せる。トースターにアルミホイルを敷いてそれらを焼く。焼けたパイたちに蜂蜜をたっぷりとかける。お好みで果物を。クリームチーズを挟んでもいい。
レシピは頭の中に入っていた。間違えない。隙も油断もない。私はキッチンに立ち、真面目な顔でパイ生地にバターと砂糖を乗せた。
べつに普通でいいけど、あなたができるならとびきりおいしく焼きあがってね。心の中でパイにそう話しかけてみた。その間ずっと、ミハエルの叫び声と物が散らかる音がしていた。BGMのようだった。
録音して、あとで聴いてみようかしら?それともあの子が寝ているときに、寝室で流してみるのも面白いか知らん……、と思案し、ひとりで笑った。
私の笑い声を聞いてか、ミハエルがキッチンに入ってきた。眉がまだ吊り上がっている。目が信じられないくらい私を睨んでいる。不細工な顔。せっかく綺麗に生まれているのに。
「くれぐれも私に怒らないことね。蜂蜜パイを焼いてあげるから」
私はミハエルの目を見て言った。皮肉な挑発の色を込めて。
ミハエルの頰に朱が昇った。彼はさっと手を振り、まな板を床に叩き落とした。
ごんと鈍い音がし、パイが床に散乱した。バターがだらしなく溶け、砂糖はキラキラと床を光らせた。
キッチンの奥では、散らかり放題のリビング。
惨状に、私は愉快になった。にたにたと目が笑うのを止められない。
「あーあ」
あなたのために作ったのに……、残念そうな声でミハエルを責めた。ミハエルは一瞬居心地の悪そうな顔をして、すぐに不機嫌な顰めっ面に戻ると、キッチンを出て行った。リビングも出て、自分の部屋に向かった。荒い、でも重みのない足音が遠ざかる。
私はパイを拾い上げ、オーブンに入れた。埃や糸くずやよく分からない塵がついていたけれど、かまわず入れた。寧ろそっちの方がいい。
パイが焼けると、私はこれでもかと蜂蜜をかけた。そして、扉の閉まっているミハエルの部屋を訪ね、遠慮なく開けた。
ミハエルはベッドの上で膝を抱えて丸くなっていた。思いがけず幼らしい仕草に、私は一瞬呆気に取られた。この子はこんな子だったかしら。パイを落としたのを今さら気にしているのかもしれない。私に怒られると思っているのかも。
「ミハエル」
私は優しい声で彼を呼んだ。
「パイができたから。一緒に食べましょう」
ミハエルは私の言葉にそっと顔を上げ、泣き濡れたような瞳でこちらを見た。
蜂蜜がとろけるパイには、熱くなった埃や糸くずや塵がまだ付着していた。私はそれらを取り払わずにそのままパイを取り分け、苺やブルーベリーで飾った。そしてミハエルに出した。
ミハエルは埃たちをじっと見ていたけれど何も言わず、指で払いながらパイを噛んだ。彼の口の端から金色の蜂蜜がこぼれ垂れるのを、私は無心で眺めていた。パイは熱くて甘くて、とびきりおいしかった。