DNメロの夢小説。地雷持ちとメロ推しは見るな。虐待、DV、その他気持ちの悪い描写なんでもござれのもはや夢小説ではない何か。
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目次
Those crazy people 頭のおかしいやつら1
DNメロ夢。火傷メロ(メロ)と子メロ(ミハエル)がいます。ひどい。愛がない。続くかもわからない。
昼食のあと、私はミハエルを殴った。日に透けるきれいな金髪を掴んで顔を上げさせ、ぎゅっと閉じている目のあたりを強く殴った。ただでさえ彼は三白眼で目つきが悪いから、まぶたが腫れればさぞかし嫌な人相になって、しばらく人前に出られないだろうと思ったからだ。
私に殴られている間、ミハエルは泣き言ひとつ漏らさなかった。ただ目を閉じ、唇を噛んで私の暴力に耐えていた。それは私をより一層苛立たせた。
手が痛くなるまで殴ると、私はミハエルを炎天下のバルコニーに放置してリビングに戻った。ミハエルは気絶していたけれど、目が覚めれば室内に入ってくるだろう。鍵はかけていないのだから。
私はミハエルがリビングに降りてきたときのために、蜂蜜をたっぷり入れたレモネードを作った。誰にも愛されないあの子が可哀想になったからだ。
メロはソファに座って新聞を読みながら、レモネードを作る私の二の腕あたりをちらちらと眺めていた。彼の視線が不快で、私はメロに尋ねた。
「なんたってそんなに私を見るの?不愉快だわ」
メロはそれには答えず、新聞をたたんで私に問い返した。
「またミハエルを殴ったろ?」
「ええ、殴ったわ。あの子が気絶するまでね。悪い?」
できあがったきらきらつやつやのレモネードにラップをかけ、冷蔵庫に入れながら私は答えた。メロは首を横に振った。
「ちっとも。好きなだけ殴ればいい」
そんなことを言うメロを、私は一瞬、ものすごく殺したくなった。メロの肉をばらばらにして鍋で煮込んで、トマトスープにするのだ。そしてそれを、ミハエルに食べさせる。それはとても素敵なことだった。ミハエルがメロの肉を食べる!そうとは知らずに!満腹になった彼は、ここ数日帰ってこないメロの居場所を私に問うだろう。そうしたら私は、彼の小さなかわいい耳にそっと唇を寄せて、真実を教えてあげるのだ。
かわいいミハエル。私のミハエル。まぶたを真っ青に腫らした彼は、脱水症状でふらふらになりながらリビングにやって来るだろう。そのときダイニングテーブルには、とろみのついた輝かしいレモネードのグラスが置いてある。側にはメロがいる。ミハエルは感激で涙を流しながらレモネードを飲むだろう。私に殴られている間我慢していた分だけ、彼はメロのために泣くだろう。私はそれをリビングのドアの陰から盗み見ている。愚かな青年と可哀想な子供の、胸が熱くなるような一幕。
私は自身の想像に感動し、涙さえ流した。そのせいでレモネードに三角に切ったレモンの切片を入れるのを忘れ、レモネードは彼に必要な酸味をいくらか失った。
Those crazy people 頭のおかしいやつら2
陳腐な言い方だけれど、焼けるような夏だった。夏は私を苛々させ、憂鬱にした。
私は薄いシーツ1枚を張った粗末な寝台に横たわっていた。骨組みは細く、本当の骨のように白茶けていた。私はこの寝台がとても気に入った。
低いサイドテーブルの上の水差しに羽虫が落ち、死んで浮かんでいた。彼は広大なプールの上で、ゆっくりと自らの羽や体液を溶かしていた。
そんな水など飲みたくもない。私は滑り落ちてくる汗を舐めた。汗は塩水の味がした。
開け放った窓の外から、ミハエルの声がしていた。他の何人かの子供の声もした。彼らはこの暑さの中、庭でサッカーをしているのだ。数十分後、あるいは数時間ののち、彼らが疲れて家の中に入ってきたら、私は彼ら全員に氷とアイスを振る舞わなければならないだろう。それはかまわないけれど、もし庭に植わった花々がひとつでも折れたり潰れたりしていれば、犯人の子の耳をひっ掴んでその子の家まで引きずり、出てきた親に苦情を言いつけてやろうと決めた。二度とうちでサッカーなんかやりたくなくなるほどに。
ほらこっちにパス、とミハエルが叫んでいるような気がするが、定かではない。ミハエルは同年代の子供の中では王様的立ち位置にいるそうだ。あの生意気なひょろっ子が。もし私がミハエルのシャツをまくって下にある傷を見せたら、彼に従わされている子たちは何と言うだろう。
彼らの声がふいに止んだので、私は起き上がり、リビングへと降りて行った。メロの姿はなく、そういえば今朝からガレージに彼のバイクもなかったので、どこかへ出かけているのだろう。
私は棚からプラスチックのコップを取り出し、色が濃いものから淡いものへと順に並べた。そして、それらひとつひとつに氷を5個ずつ入れ、棒アイスを1本ずつ挿して、子供たちが入ってくるのを待った。
ところが、ドアを開けて入ってきたのは、ミハエル一人だった。彼はサッカーボールを脇に抱え、私を上目遣いに見上げた。
「他の子は?」
私が尋ねると、ミハエルはボールを床に置きながら答えた。
「帰したよ。アイスをみんなで分けるのはもったいないと思ったから」
その答えに、私はとんでもなくミハエルをいとおしいと思った。この馬鹿な子供が、はじめて私の前で何かを裏切り、反抗して見せたような気がした。
何に対して反抗したのかは分からなかったけれど、そんなことはどうでもよかった。私はミハエルにシャワーを浴びさせ、彼の細っこい身体を隅々まで洗った。清潔なタオルでよく拭くと、私がつけた傷のひとつひとつにキスの雨を降らせた。ミハエルはくすぐったげに私の頭を抱きかかえ、ときおり絞るような笑い声をあげた。
それから私たちは、リビングでほとんど溶けた氷とアイスを二人占めした。
Those crazy people 頭のおかしいやつら3
メロがひどい。絶対こんなことしません。
DV表現⚠︎
手が震えている。恐怖している、という言葉が頭に浮かんだ。そう、私は恐怖している。
私はソファの隅に隠れている。リビングを出ていけばよかったけれど、出ていく隙はなかった。
「…ニア……」
メロの低い声がして、私の身体はびくりと跳ねる。
鼓動が早くなる。手の震えがまた一段とひどくなった。
「め、メロ、やめろよ…」
ミハエルの声だ。怖がっている。私は彼を守らなければと思う。だって彼はいとしいイディオットなのだから。
同時に私は、彼が私の代わりに殴られればいいのにとも思う。それでメロの気が鎮まるなら。
「黙れミハエル、おまえは関係ない。これは俺たちの問題なんだ、なあニア」
でもそんなことになるはずもない。
だって彼が怒っている相手はニアで、私はニアと間違えられているのだ。髪が同じ白の癖毛という理由で。
「はは。隠れん坊か、ニア。ハウスではそんな遊び興味ないって顔してたくせになあ」
乾いた笑い声と酔った声。ふらふらに泥酔してどろけた目で、メロが私を、いえ、ニアを見つける。
私は“ハウス”もニアも知らない。ニアはミハエルのクラスメイトの父親だ。私が知っているのはそれだけだ。
メロが私の腕を掴む。皮膚がひきつれるくらい強く。掴むだけで痣になるなんてことは、……ある。私はそれを知っている。
「ニア」
メロの目は酒でどろどろに溶けているくせに、奥が据わっている。私の知らない怒りで心のどこかのねじが外れている。
髪を抜けるほど引っ張られた。ぎぃっ、と潰れた唸り声が喉から漏れて、ミハエルが息を呑む気配がした。
メロは酒に酔うと、私をニアだと思い込んで暴力を振るう。
メロは細身だけど筋肉質だ。殴られれば痛いし、力も強くてとてもかなわない。男と女だ。かなうはずがない。
髪を掴んで引きずり、無理やり立たせては床に叩きつける。馬乗りになって首を絞める。
意味のない抵抗と知りながらもメロの手を外そうと指をかけながら、ひどいなあ、ひどいな嫌いだ死ねばいいのにな、と思う。
だけど同時に、このどうしようもできない現実に苛立ち、悲しくなり、それよりも何よりも呼吸が苦しく、ぎりぎりと首を絞めつけるメロの熱い手の感触を感じて、私は生きてるっていいなあと思う。死がすぐそばに近づくことは、強烈に生を実感することの裏返しなのだと、毎度身を持って知る。
熱い!痛い!麻痺する!おかしい!苦しい!折れそう!熱い!熱い!冷たい!痺れてる!赤い!熱い!破裂しそう!不条理だ!気持ち悪い!痛い!苦しい!苦しい!苦しい。みんな必死になっている。みんなで必死に酸素を吸って二酸化炭素を吐いて、生きよう生きようともがいている。
あー、生きているって気持ちがいい。
まだ死にたくない。
自分の意思でない涙が出る。涙はメロの手と同じくらい熱い。
私が泣いてようやく、メロは手を離す。空気がどばりと流れ込んできて、私は嘔吐くほど咳き込む。
「……悪い」
たったそれだけを吐き捨てて、素面に戻ったのだかまだ酔っているのだか判別のつかないメロはリビングを出ていく。キッチンに隠れていたミハエルがそろそろと出てくる。
「…大丈夫かよ」
ミハエルの言葉に、私は顔をあげて笑う。
「大丈夫よ。すごくヨかったもの」
Those crazy people 頭のおかしいやつら4
筆が止まらん〜〜〜
大人ニア(ニア)います 🎶子ニア(ネイト)はいずれ出す予定
どうして私がミハエルの授業参観なんかに行かなくちゃいけないのかしら?と口の中で唱えているうちに、黄色い壁の学校についてしまった。
まずこの壁が気に入らない。学校を黄色なんて素敵な色で塗るのは絶対に間違っている。これじゃあ生徒は壁の美しさに気を取られてちっとも勉強に集中できないはずだ。と、ぶつくさ文句を言っていたら、知らない親たちに怪訝な顔をされた。
仕返しに彼女たちが靴箱にしまっていった靴のひとつひとつに先が尖った小石を仕込んでから、錆びた階段を音を立てて登った。ミハエルの教室は3-Eだ。
教室にはすでに十人ほどの親がいた。生徒の数は十四人だから、私はどちらかというと遅く来た方になる。私に気づいたミハエルが控えめに手を振ってきたけれど、無視した。
子供の授業なんて聞いても面白くないので、隣に立つ親の顔を何気なく覗いて、呼吸が止まった。
隣にいたのはニアだった。白いパジャマのような服を着て、猫背で立っている。
息が荒くなった。先日メロから受けた傷がずくんずくんと痛み出した。私は小さな声で彼に話しかけた。
「あの、あなた、そうあなた。ニア、さんよね」
「…ええ」
ニアは整った白い顔をいぶかしげにひそめて答えた。茫然とした表情で、あまり理知的には見えない。けれどもメロが言うところには、彼はとても賢いのだそうだ。
「あなた、メロという男を知っている?いえ、知っているわよね当然。出身があの、同じでしょう」
「……」
ニアは黙って私の鼻のあたりを眺めはじめた。もしかしたら彼は、私の頭が少しおかしいと思っているのかもしれない。同じ子を持つ親なのに。失礼だ。彼がこうやって失礼な態度をとるのであれば、私も多少無礼な言葉を吐いても許されるだろう。
「あのね、私は、あなたのせいで、メロに暴力を振るわれているんです。その、メロは私をあなたと見間違えるから。ほら、髪が、髪の色が同じだから、だから彼は……とにかくね、その、メロは私を殴るんです。首をあの、ほら、こうやって絞めたり。痕があるでしょ。だから、何が言いたいかっていうと」
私は彼の目をまっすぐ見つめて喋る。口がおかしいほど回る。私はコメンテーターになれるかもしれない。
嘘だ。私はコメンテーターなんぞなれやしない。お喋りは下手だから。それに好きでもない。
「あの、やめてくれますか?いろいろ。そう、それが言いたかったの。ずっと」
ニアは私の顔を不躾に観察したのち、口を開いた。
「…大丈夫ですか?あなた」
彼の落ち着ききった冷静な声に、頭の奥で、脳味噌の中で結ばれている赤いリボンがぷつりと切れた。
そのあとのことはあまり覚えていない。私は顔を真っ赤にして教室を飛び出した気がする。鏡を見たわけではないから本当に赤かったかは分からないけれど、頬がものすごく熱かったからたぶんそうだ。涙が出そうで出ないような感覚がした。冷えた廊下が心地よかった。我に帰ったら家にいた。
Those crazy people 頭のおかしいやつら5
陰鬱に雨が降る日、私は朝からテレビを見ていた。
メロはどこかへ出かけてしまったし、ミハエルは学校だ。つまらない。
だから律儀にソファに座って、右手には美味しい小さな胡桃を、左手にはリモコンをしっかりと握りしめて、テレビを見ているというわけなのだ。
私が観ていたのは国会の中継だった。スーツを着た白人の政治家たちが怒鳴り合い、互いを責め立てている。
内容は国家予算だとか政治方針だとかであるのに、遣り口は幼稚園児とまるで変わらない。これは面白いけれど見下す気は全く起こらなかった。私は政治家や医者といった人物を無条件で尊敬しているのだ。
一時間ほど中継を見続けたのち、チャンネルを変えた。
次に観たのは、辺鄙な田舎で自給自足をして暮らす六人家族に密着した番組だった。
こういう番組をなんと称したらいいのか分からない。ドキュメンタリーというにはシリアスに欠けるし、バラエティにはおとなしすぎる。しかし、世の中の全てのものが分類できるわけでもあるまい。そういう事柄は「分類不可」という枠に分類される。ふん。
その六人家族は絵に描いたような人々で、絵に描いたような生活をしていた。
両親と子供二人と祖父母、それに大型犬が一匹。妻はどっしりと穏やかで料理がうまく、庭仕事に精を出す。夫は深い青い眼を持ち寡黙だが、ときどき気の利いたジョークを言って家族を笑わせる。子供たちは心優しく、自分たちの生活に満足している。家庭円満。喧騒に満ちた都会を離れ、不便だが平穏に満ちた毎日。
くだらない。ありきたりすぎる。しかし素敵だ。とても素晴らしい。
私は意義のある修羅場が好きだけれど、意味のない命はもっと好きだ。
もっとも、他人の命や生活を「意味がない」と言うのは失礼だ。そんなことは分かっている。でも、国の未来を左右する国会とちっぽけな田舎の一家では、その価値の差は歴然としている。後者の方が良いというのは天邪鬼でさえあると思う。
たとえば、この手の中の胡桃とリモコンとか。胡桃は食べてしまえばそれで終わりだけれど、リモコンはないと困る。これひとつでテレビが自在に操作できるし、そのおかげでこうして暇も潰せるのだ。
けれど、メロとミハエルは?考えてふと、私は困った。メロとミハエル、一体どちらがより重要なのだろう。
単純に考えればメロだろう。メロは私とミハエルの扶養者であるし、成人していて健康だ。
しかしミハエルより大事かと問われたら、私は頷く気がしない。
ではミハエルの方が重要か?でも彼は被扶養者で痩せた子供だ。メロよりミハエルの方が大事とは言えない。
メロとミハエルをこの問題で比べるというのは難しい。そもそも同じ土俵に立っていない気がする。どちらがより優っているという話ではない。
私は二人のどちらも愛しているし、憎んでいる。彼らの好きなところと嫌いなところをぴったり同じ数だけ挙げることもできる。そしてどちらかといえば私は二人とも嫌いだ。それでも側にいないのは違う。それは何かが間違っている。
雨は止まないし、二人は帰ってこない。早く。早く帰ってきて。私のそばに来て。
Those crazy people 頭のおかしいやつら6
朝。制服に着替えているミハエルに、私は言い放った。
「今日は学校、休みなさいよ」
どうせ大したこと習ってないんだから、いいでしょう?ミハエルは驚いた顔で固まっている。ああもう、愚図ったらしいことしないでよ。
「映画に連れてってあげる。この前街に出たとき、ポスターが貼ってあったじゃない」
私の言葉に、ミハエルは驚いた顔のまま、小さく頷いた。私は続けた。
「じゃあまず、その服脱ぎなさい」
泡を嫌というほど盛り立てたバスルームに二人、弾けるシャボンで息が詰まり、石鹸の甘い香りにむせかえる。華奢な裸になったミハエルは、おとなしく私のされるがままになっていた。
細い身体。でも骨と皮って感じじゃあない。当然だ。食事はちゃんと摂らせている。
頰にふわふわの泡を垂らしたミハエルは、まだ充分に幼い。私に性器を見られるのにも抵抗がない。彼の年齢を考えると、少し幼稚すぎると思うけれど。彼はマザー・コンプレックスの気があるのかもしれない。でも私はこの子の母じゃない。
しゅわしゅわの泡を洗い流して、温かいお湯に首まで浸からせて、バスタイムを終えた。
指通りのいい金髪を乾かして、白い小さなシャツを着せて。手をかけたミハエルは綺麗だった。人形のようで、あまり触れたくない。
家を出ると、私は彼の手をふんわりと握った。ミハエルの拳は小さくて、少しだけ湿っていた。気持ち悪くて愛しい感触。わざと早足に歩いて、ときどき駆け足になるミハエルの手を引っ張った。かわいいミハエル。私のミハエル。
映画館は少し遠い。バスを使った。隣に座るミハエルは物珍しそうに車内を眺め回し、それから私の顔を盗み見ていた。かわいい子。愚図で小さなかわいい子だ。私は知らないふりをした。
映画は子供向けのアニメだった。派手で分かりやすい色が画面を埋めつくし、恥ずかしくなるような歌が流れ続けた。ミハエルは少しでも私と触れる面積を増やそうとしているかのように密着し、私の腕を掴んでいた。その体温のおかげで、ちっとも眠くなかった。
「面白かった?」
「うん」
ならいいの。よかったわね、ミハエル。思ったけれど言わなかった。
帰り道、市場の青果屋でさくらんぼを買った。真っ赤でつやつやしていて、いい匂いのする紙袋に詰まったのを一つ。いかにも美味しそうで、安かった。ミハエルは嬉しそうに袋を抱えた。
家に着くと、ミハエルはさくらんぼをテーブルの上にずらりと並べて、私の隣にぴったりくっついて座った。私は彼の頭を撫でて金髪を指で梳きながら、一粒ずつ彼に食べさせてあげた。私もいくつかを食べた。酸っぱくて甘い汁が互いの唇を塗った。
かわいい子。私は幸せだった。さくらんぼの甘い匂いが、リビングに薄く広がっていた。
Those crazy people 頭のおかしいやつら7
さいきん平和?こういうときがあっても素敵なのですきっと
学校から帰ってくるとすぐ、ミハエルは癇癪を起こした。リュックが蹴飛ばされ、机の上にあったティッシュケースとクリップとマグカップが払い落とされた。泣いているのかただ叫んでいるのか分からない声をあげて彼は暴れた。ひどい荒れようだった。
私は何があったのか尋ねようとしたけれど、鼓膜が痺れる勢いの彼の声に辟易して諦めた。そうして、蜂蜜パイを作ることにした。
パイ生地にラップを被せてしばらく放置し、柔らかくなったらバターと砂糖を乗せる。トースターにアルミホイルを敷いてそれらを焼く。焼けたパイたちに蜂蜜をたっぷりとかける。お好みで果物を。クリームチーズを挟んでもいい。
レシピは頭の中に入っていた。間違えない。隙も油断もない。私はキッチンに立ち、真面目な顔でパイ生地にバターと砂糖を乗せた。
べつに普通でいいけど、あなたができるならとびきりおいしく焼きあがってね。心の中でパイにそう話しかけてみた。その間ずっと、ミハエルの叫び声と物が散らかる音がしていた。BGMのようだった。
録音して、あとで聴いてみようかしら?それともあの子が寝ているときに、寝室で流してみるのも面白いか知らん……、と思案し、ひとりで笑った。
私の笑い声を聞いてか、ミハエルがキッチンに入ってきた。眉がまだ吊り上がっている。目が信じられないくらい私を睨んでいる。不細工な顔。せっかく綺麗に生まれているのに。
「くれぐれも私に怒らないことね。蜂蜜パイを焼いてあげるから」
私はミハエルの目を見て言った。皮肉な挑発の色を込めて。
ミハエルの頰に朱が昇った。彼はさっと手を振り、まな板を床に叩き落とした。
ごんと鈍い音がし、パイが床に散乱した。バターがだらしなく溶け、砂糖はキラキラと床を光らせた。
キッチンの奥では、散らかり放題のリビング。
惨状に、私は愉快になった。にたにたと目が笑うのを止められない。
「あーあ」
あなたのために作ったのに……、残念そうな声でミハエルを責めた。ミハエルは一瞬居心地の悪そうな顔をして、すぐに不機嫌な顰めっ面に戻ると、キッチンを出て行った。リビングも出て、自分の部屋に向かった。荒い、でも重みのない足音が遠ざかる。
私はパイを拾い上げ、オーブンに入れた。埃や糸くずやよく分からない塵がついていたけれど、かまわず入れた。寧ろそっちの方がいい。
パイが焼けると、私はこれでもかと蜂蜜をかけた。そして、扉の閉まっているミハエルの部屋を訪ね、遠慮なく開けた。
ミハエルはベッドの上で膝を抱えて丸くなっていた。思いがけず幼らしい仕草に、私は一瞬呆気に取られた。この子はこんな子だったかしら。パイを落としたのを今さら気にしているのかもしれない。私に怒られると思っているのかも。
「ミハエル」
私は優しい声で彼を呼んだ。
「パイができたから。一緒に食べましょう」
ミハエルは私の言葉にそっと顔を上げ、泣き濡れたような瞳でこちらを見た。
蜂蜜がとろけるパイには、熱くなった埃や糸くずや塵がまだ付着していた。私はそれらを取り払わずにそのままパイを取り分け、苺やブルーベリーで飾った。そしてミハエルに出した。
ミハエルは埃たちをじっと見ていたけれど何も言わず、指で払いながらパイを噛んだ。彼の口の端から金色の蜂蜜がこぼれ垂れるのを、私は無心で眺めていた。パイは熱くて甘くて、とびきりおいしかった。
Those crazy people 頭のおかしいやつら8
ある曇りの日、私はふと思い立って、アルバムの整理をはじめた。
この家に住むようになってからずっと、こまめに撮りためている写真たちが納まっているのだ。若草色の表紙をしばらく眺め、それから開く。
最初の写真は、家具も何もない、がらんどうの家の中を映したものだ。たぶん、初めてここに来たときに撮ったものだと思う。その次は、どこかの土産屋で売っていたカメレオンの置き物。その次は、薄汚い路地裏にうずくまった猫。その次は、この国の国旗が青空にはためく姿。その次は、どこかの知らないかわいい女の子。その次は、カラメルをかけすぎた手作りのプリン。
その次は、家の外に立ってマイホームを眺めているメロ。その次は、牛乳をめちゃくちゃにこぼしながら飲む幼いミハエル。
2人の写真が出てきて、私は手を止めた。光を反射するビー玉や、外の葉の影が透けるカーテンなどのキラキラした写真たちに包まれた2人は、とても幸せそうに見えた。でも私のそんな写真は一枚も、ない。
写真の中とはいえ、2人ばかり幸せになって。
私はアルバムから2人の写真を引き抜いた。ページをめくっては抜いて、まためくって、抜いてを繰り返した。薄い紙切れの中に静止した彼らは、もう二度と不幸になることがないのだ。そんなのっておかしい、抜け駆けだと私は呟く。
私は彼らの写真を細かく破り、引き裂き、彼らの永遠の停止を壊した。それから全部まとめて裏庭に持って行き、燃やして塵にした。
いつかこのアルバムを目にした誰か、あるいは私が、どうして彼らの写真を一枚も残さなかったのだろうと首をひねり、または後悔するように。私は「未来の自分」というものが大嫌いなのだ。彼らは今現在の私たちから、よりよい環境に置いてやろうという配慮を受け続けているからだ。
写真がすべて燃えると、私の胸には疲れと後悔がどっと押し寄せてきた。
随分早い後悔だと思いつつ悔やむ気持ちに身を任せていると、そのうち両目から涙があふれ出してきた。私はその涙をスプーンで集めて掬い、水を満たしたグラスに混ぜた。そしてその水を飲んだ。水はほのかに甘く、私の後悔などそ知らぬ顔をしていた。
涙を混ぜた水は少し残しておき、その日の夕食の調理に使った。学校から帰ったミハエルとクイズで遊ぶ間、私の後悔は仕込んだ鶏肉に染み込んでいった。それをいつもの顔でミハエルに出し、彼は普通の顔で食べた。遅く帰ってきたメロも同じだった。
私は自分の後悔が他人に容易に踏みにじられる程度のものであることに謙虚な安堵を覚えつつ、あたたかく沈んでいくような眠りについた。