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Those crazy people 頭のおかしいやつら3
メロがひどい。絶対こんなことしません。
DV表現⚠︎
手が震えている。恐怖している、という言葉が頭に浮かんだ。そう、私は恐怖している。
私はソファの隅に隠れている。リビングを出ていけばよかったけれど、出ていく隙はなかった。
「…ニア……」
メロの低い声がして、私の身体はびくりと跳ねる。
鼓動が早くなる。手の震えがまた一段とひどくなった。
「め、メロ、やめろよ…」
ミハエルの声だ。怖がっている。私は彼を守らなければと思う。だって彼はいとしいイディオットなのだから。
同時に私は、彼が私の代わりに殴られればいいのにとも思う。それでメロの気が鎮まるなら。
「黙れミハエル、おまえは関係ない。これは俺たちの問題なんだ、なあニア」
でもそんなことになるはずもない。
だって彼が怒っている相手はニアで、私はニアと間違えられているのだ。髪が同じ白の癖毛という理由で。
「はは。隠れん坊か、ニア。ハウスではそんな遊び興味ないって顔してたくせになあ」
乾いた笑い声と酔った声。ふらふらに泥酔してどろけた目で、メロが私を、いえ、ニアを見つける。
私は“ハウス”もニアも知らない。ニアはミハエルのクラスメイトの父親だ。私が知っているのはそれだけだ。
メロが私の腕を掴む。皮膚がひきつれるくらい強く。掴むだけで痣になるなんてことは、……ある。私はそれを知っている。
「ニア」
メロの目は酒でどろどろに溶けているくせに、奥が据わっている。私の知らない怒りで心のどこかのねじが外れている。
髪を抜けるほど引っ張られた。ぎぃっ、と潰れた唸り声が喉から漏れて、ミハエルが息を呑む気配がした。
メロは酒に酔うと、私をニアだと思い込んで暴力を振るう。
メロは細身だけど筋肉質だ。殴られれば痛いし、力も強くてとてもかなわない。男と女だ。かなうはずがない。
髪を掴んで引きずり、無理やり立たせては床に叩きつける。馬乗りになって首を絞める。
意味のない抵抗と知りながらもメロの手を外そうと指をかけながら、ひどいなあ、ひどいな嫌いだ死ねばいいのにな、と思う。
だけど同時に、このどうしようもできない現実に苛立ち、悲しくなり、それよりも何よりも呼吸が苦しく、ぎりぎりと首を絞めつけるメロの熱い手の感触を感じて、私は生きてるっていいなあと思う。死がすぐそばに近づくことは、強烈に生を実感することの裏返しなのだと、毎度身を持って知る。
熱い!痛い!麻痺する!おかしい!苦しい!折れそう!熱い!熱い!冷たい!痺れてる!赤い!熱い!破裂しそう!不条理だ!気持ち悪い!痛い!苦しい!苦しい!苦しい。みんな必死になっている。みんなで必死に酸素を吸って二酸化炭素を吐いて、生きよう生きようともがいている。
あー、生きているって気持ちがいい。
まだ死にたくない。
自分の意思でない涙が出る。涙はメロの手と同じくらい熱い。
私が泣いてようやく、メロは手を離す。空気がどばりと流れ込んできて、私は嘔吐くほど咳き込む。
「……悪い」
たったそれだけを吐き捨てて、素面に戻ったのだかまだ酔っているのだか判別のつかないメロはリビングを出ていく。キッチンに隠れていたミハエルがそろそろと出てくる。
「…大丈夫かよ」
ミハエルの言葉に、私は顔をあげて笑う。
「大丈夫よ。すごくヨかったもの」