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からっぽの交換日記
今回はアイドルなしです。
第一章:世界で一番、大好きな人
小学6年生の春、クラス替えの日の朝。りんかの世界は、一つの笑顔によって180度変わった。
隣の席になった、はるや。少し癖のある黒髪に、笑うと細くなる瞳。スポーツ万能で、誰にでも裏表なく優しい、クラスの人気者だった。
りんかは恋に落ちた。それは、小学生の淡い初恋なんて言葉じゃ足りないくらい、激しくて、真っ直ぐで、止められない感情だった。
「ねぇねぇ、はるや! 今日の一時間目のノート、見せてあげよっか?」
「はるや、放課後一緒に帰ろ! 待ってるからね!」
「これ、はるやのために買ってきたお守り。絶対机に飾ってね!」
りんかのアプローチは、とにかく真っ直ぐで、そして少し過剰だった。最初ははるやも、「あはは、りんかは元気だな〜」「ありがとう」と苦笑いしながらも優しく応えてくれていた。その優しい態度が、りんかのブレーキを完全に壊してしまった。
毎日、朝から晩まではるやの後を追いかけ、はるやが他の女子と楽しそうに話していると、その間に割って入った。連絡先を交換してからは、1日に何十通も「今何してる?」「明日の予定は?」とメッセージを送り続けた。
りんかにとって、それは「大好きな気持ちの証明」だった。でも、はるやにとっては、それは少しずつ、確実に、息苦しい「檻」へと変わっていった。
第二章:すれ違う熱量
夏休みが明ける頃には、二人の間の空気は完全に冷え切っていた。
はるやの態度は、明らかに変わっていた。りんかが話しかけても、視線を合わせようとしない。生返事すら少なくなり、露骨に迷惑そうな顔を隠さなくなった。
「……ねぇ、りんか。ちょっとしつこいよ」
ある日の放課後、廊下ではるやに呼び止められた。初めて向けられた、冷ややかな、突き放すような瞳。
「俺、毎日何通も連絡くるの、正直しんどい。クラスの男子からもからかわれるし、もう話しかけてこないでほしい」
普通なら、ここで身を引くのかもしれない。でも、りんかは違った。
(私の気持ちが、まだはるやにちゃんと伝わっていなんだ。もっと頑張らなきゃ、はるやの『一番』になれない――)
嫌われる恐怖よりも、「諦めたくない」という執念が勝ってしまった。
りんかのアプローチは、さらにエスカレートしていった。はるやの下校ルートを先回りして待ち伏せしたり、はるやが「やめて」と言えば言うほど、「どうして? 私はこんなにはるやのことが好きなのに!」と涙を流して縋りついた。
はるやの優しさは、もう限界を迎えていた。
最初は「困惑」だったはるやの感情は、いつしか明確な「嫌悪」へと変わっていった。りんかが視界に入るだけで、はるやはあからさまに不機嫌になり、舌打ちをして背を向けるようになった。
第三章:最後の告白
冬が訪れ、卒業の足音が聞こえ始めた12月の放課後。
りんかは、これまでに溜め込んだ想いをすべてぶつけようと、校舎の裏手にはるやを呼び出した。これが最後のチャンスだと思った。ここまで一途に想い続けたんだから、きっとはるやの心にも届くはずだと、どこかで信じていた。
夕暮れ時の冷たい風が吹く中、はるやはポケットに手を突っ込んだまま、ひどく冷めた顔で現れた。
「用って何? 早くして」
「はるや……っ。これ、読んでほしいの!」
りんかは、両手で抱えていた一冊のノートを差し出した。それは、りんかが毎日、はるやへの想いを綴り続けた、手作りの「交換日記」だった。はるやのページは全部白紙。りんかの文字だけが、何十ページにもわたってびっしりと埋まっている、歪なノート。
「私、はるやのことが本当に大好きなの! 世界中の誰よりも! 最初は迷惑だったかもしれないけど、私の本気を知ってほしくて……っ。卒業しても、ずっと一緒に――」
「――いい加減にしてくれよ」
地を這うような、冷徹な声だった。
はるやは、差し出されたノートを手に取るどころか、激しい嫌悪感を露わにして、りんかを睨みつけた。
「本当に気持ち悪い。お前のそういうところが、心の底から大嫌いなんだよ」
その言葉は、鋭い刃物となってりんかの胸に突き刺さった。
「好きなら何してもいいと思ってんの? 毎日毎日、ストーカーみたいにつきまとわれて、俺がどれだけ苦しかったか分かんねぇだろ。お前に名前を呼ばれるだけで、反吐が出るくらい不快なんだよ」
はるやの瞳には、一切の情も、カケラほどの優しさも残っていなかった。そこにあるのは、ただただ純粋な「拒絶」と「嫌悪」だけだった。
「二度と、俺の前に現れるな。顔も見たくない」
はるやは言い捨てると、振り返りもせず、足早に立ち去っていった。カツカツと響く靴音が、遠ざかっていく。
残されたのは、夕闇に包まれた校舎の裏で、一人佇むりんかだけだった。
第四章:からっぽの結末
手元に残された、はるやに受け取ってもらえなかったノート。
冷たい風に煽られて、パラパラとページがめくれていく。
どれだけ叫んでも、どれだけ涙を流しても、どれだけ一途に想い続けても。
届かないどころか、相手の心を完全に破壊し、修復不可能なほどに嫌われてしまった。
りんかは、その場に力なくへたり込んだ。
涙すら、もう出てこなかった。頭の中で、はるやが最後に放った「本当に気持ち悪い」「心の底から大嫌い」という言葉が、呪いのように何度も、何度もリフレインする。
真っ白な、はるやが書くはずだったページ。
それは、どれだけ手を伸ばしても、絶対に手に入らなかった二人の未来そのものだった。
卒業までの残りの数ヶ月。はるやがりんかと目を合わせることは、二度となかった。りんかの初恋は、美しい思い出にすらなることを許されず、ただ冷たい暗闇の中に、深く、深く沈んで消えていった。
実体験をもとに、付け足して書きました。名前は関係ありません。