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目次
からっぽの交換日記
今回はアイドルなしです。
第一章:世界で一番、大好きな人
小学6年生の春、クラス替えの日の朝。りんかの世界は、一つの笑顔によって180度変わった。
隣の席になった、はるや。少し癖のある黒髪に、笑うと細くなる瞳。スポーツ万能で、誰にでも裏表なく優しい、クラスの人気者だった。
りんかは恋に落ちた。それは、小学生の淡い初恋なんて言葉じゃ足りないくらい、激しくて、真っ直ぐで、止められない感情だった。
「ねぇねぇ、はるや! 今日の一時間目のノート、見せてあげよっか?」
「はるや、放課後一緒に帰ろ! 待ってるからね!」
「これ、はるやのために買ってきたお守り。絶対机に飾ってね!」
りんかのアプローチは、とにかく真っ直ぐで、そして少し過剰だった。最初ははるやも、「あはは、りんかは元気だな〜」「ありがとう」と苦笑いしながらも優しく応えてくれていた。その優しい態度が、りんかのブレーキを完全に壊してしまった。
毎日、朝から晩まではるやの後を追いかけ、はるやが他の女子と楽しそうに話していると、その間に割って入った。連絡先を交換してからは、1日に何十通も「今何してる?」「明日の予定は?」とメッセージを送り続けた。
りんかにとって、それは「大好きな気持ちの証明」だった。でも、はるやにとっては、それは少しずつ、確実に、息苦しい「檻」へと変わっていった。
第二章:すれ違う熱量
夏休みが明ける頃には、二人の間の空気は完全に冷え切っていた。
はるやの態度は、明らかに変わっていた。りんかが話しかけても、視線を合わせようとしない。生返事すら少なくなり、露骨に迷惑そうな顔を隠さなくなった。
「……ねぇ、りんか。ちょっとしつこいよ」
ある日の放課後、廊下ではるやに呼び止められた。初めて向けられた、冷ややかな、突き放すような瞳。
「俺、毎日何通も連絡くるの、正直しんどい。クラスの男子からもからかわれるし、もう話しかけてこないでほしい」
普通なら、ここで身を引くのかもしれない。でも、りんかは違った。
(私の気持ちが、まだはるやにちゃんと伝わっていなんだ。もっと頑張らなきゃ、はるやの『一番』になれない――)
嫌われる恐怖よりも、「諦めたくない」という執念が勝ってしまった。
りんかのアプローチは、さらにエスカレートしていった。はるやの下校ルートを先回りして待ち伏せしたり、はるやが「やめて」と言えば言うほど、「どうして? 私はこんなにはるやのことが好きなのに!」と涙を流して縋りついた。
はるやの優しさは、もう限界を迎えていた。
最初は「困惑」だったはるやの感情は、いつしか明確な「嫌悪」へと変わっていった。りんかが視界に入るだけで、はるやはあからさまに不機嫌になり、舌打ちをして背を向けるようになった。
第三章:最後の告白
冬が訪れ、卒業の足音が聞こえ始めた12月の放課後。
りんかは、これまでに溜め込んだ想いをすべてぶつけようと、校舎の裏手にはるやを呼び出した。これが最後のチャンスだと思った。ここまで一途に想い続けたんだから、きっとはるやの心にも届くはずだと、どこかで信じていた。
夕暮れ時の冷たい風が吹く中、はるやはポケットに手を突っ込んだまま、ひどく冷めた顔で現れた。
「用って何? 早くして」
「はるや……っ。これ、読んでほしいの!」
りんかは、両手で抱えていた一冊のノートを差し出した。それは、りんかが毎日、はるやへの想いを綴り続けた、手作りの「交換日記」だった。はるやのページは全部白紙。りんかの文字だけが、何十ページにもわたってびっしりと埋まっている、歪なノート。
「私、はるやのことが本当に大好きなの! 世界中の誰よりも! 最初は迷惑だったかもしれないけど、私の本気を知ってほしくて……っ。卒業しても、ずっと一緒に――」
「――いい加減にしてくれよ」
地を這うような、冷徹な声だった。
はるやは、差し出されたノートを手に取るどころか、激しい嫌悪感を露わにして、りんかを睨みつけた。
「本当に気持ち悪い。お前のそういうところが、心の底から大嫌いなんだよ」
その言葉は、鋭い刃物となってりんかの胸に突き刺さった。
「好きなら何してもいいと思ってんの? 毎日毎日、ストーカーみたいにつきまとわれて、俺がどれだけ苦しかったか分かんねぇだろ。お前に名前を呼ばれるだけで、反吐が出るくらい不快なんだよ」
はるやの瞳には、一切の情も、カケラほどの優しさも残っていなかった。そこにあるのは、ただただ純粋な「拒絶」と「嫌悪」だけだった。
「二度と、俺の前に現れるな。顔も見たくない」
はるやは言い捨てると、振り返りもせず、足早に立ち去っていった。カツカツと響く靴音が、遠ざかっていく。
残されたのは、夕闇に包まれた校舎の裏で、一人佇むりんかだけだった。
第四章:からっぽの結末
手元に残された、はるやに受け取ってもらえなかったノート。
冷たい風に煽られて、パラパラとページがめくれていく。
どれだけ叫んでも、どれだけ涙を流しても、どれだけ一途に想い続けても。
届かないどころか、相手の心を完全に破壊し、修復不可能なほどに嫌われてしまった。
りんかは、その場に力なくへたり込んだ。
涙すら、もう出てこなかった。頭の中で、はるやが最後に放った「本当に気持ち悪い」「心の底から大嫌い」という言葉が、呪いのように何度も、何度もリフレインする。
真っ白な、はるやが書くはずだったページ。
それは、どれだけ手を伸ばしても、絶対に手に入らなかった二人の未来そのものだった。
卒業までの残りの数ヶ月。はるやがりんかと目を合わせることは、二度となかった。りんかの初恋は、美しい思い出にすらなることを許されず、ただ冷たい暗闇の中に、深く、深く沈んで消えていった。
実体験をもとに、付け足して書きました。名前は関係ありません。
両想いの交換日記
第一章:あきらめない、私の初恋
小学6年生の春、クラス替えの日の朝。りんかの世界は、一つの笑顔によって180度変わった。
隣の席になった、はるや。スポーツ万能で、笑うと細くなる瞳が優しくて、クラスの人気者だった。
りんかは恋に落ちた。それは、止められないほど真っ直ぐな感情だった。
「ねぇねぇ、はるや! 今日の一時間目のノート、見せてあげよっか?」
「はるや、放課後一緒に帰ろ! 待ってるからね!」
りんかのアプローチは、とにかく一生懸命。最初ははるやも「あはは、りんかは元気だな〜」と笑ってくれていた。けれど、毎日毎日、朝から晩まで全力で追いかけ、1日に何通もメッセージを送るりんかの熱量に、はるやは少しずつ、困惑の表情を隠さなくなっていった。
秋を迎える頃には、はるやの態度はあからさまに冷たくなっていた。話しかけても視線を合わせず、生返事ばかり。
「……ねぇ、りんか。ちょっとしつこいよ。もう話しかけてこないでほしい」
廊下で初めて向けられた、突き放すような冷たい瞳。
普通なら、ここで心が折れて諦めてしまうのかもしれない。でも、りんかは違った。
(はるやに迷惑をかけちゃったのは本当にごめんなさい。でも、私の『大好き』な気持ちは、絶対に諦めたくない――!)
りんかは作戦を変えることにした。ただむやみに追いかけるのをやめて、はるやの負担にならないように一歩引きながら、でも、誕生日にはそっとお祝いの言葉を贈り、はるやが部活で疲れている時はさりげなく差し入れを机に置いた。
どれだけ冷たくされても、真っ直ぐに自分だけを見つめ、健気に、でも一途に想い続けてくれるりんか。その姿に、はるやの頑なだった心は、少しずつ、でも確実に変化していった。
第二章:京都の夜、二人きりの約束
そして迎えた、秋の修学旅行。舞台は、夕暮れに染まる美しい京都の街。
旅館での自由時間、りんかは意を決して、はるやを静かな中庭へと呼び出した。これが、自分のすべての想いを伝える、最初で最後のチャンス。
ひんやりとした秋の風が吹く中、はるやがやってきた。その表情は、かつての冷たい拒絶のものではなく、どこか緊張したような、真剣なものだった。
「はるや……っ。これ、読んでほしいの!」
りんかは、ずっと大切に抱えていた一冊のノートを差し出した。それは、りんかがこれまでに溜め込んだ想いを、毎日大切に綴り続けた手作りの「交換日記」だった。はるやのページはまだ白紙だけど、りんかの文字で、はるやへの大好きな気持ちがびっしりと埋まっている。
「私、どれだけはるやに冷たくされても、嫌われそうになっても、はるやのことが諦められないくらい大好きなの。世界中の誰よりも! ……もしよかったら、この日記の続き、はるやと一緒に書きたいです。私と、付き合ってください!」
ギュッと目を瞑り、ノートを差し出すりんかの手が、小刻みに震えている。
静寂が二人を包み込む。りんかの心臓は、破裂しそうなほど激しく鳴り響いていた。
「……はぁ。本当に、お前には敵わないな」
頭の上から聞こえてきたのは、呆れたような、でも、驚くほど優しくて温かい、はるやの声だった。
第三章:からっぽじゃない未来(ハッピーエンド)
りんかがゆっくりと目を開けると、はるやがフッと優しく微笑みながら、差し出されたノートをその大きな手でしっかりと受け取っていた。
「毎日毎日、あんなに真っ直ぐ俺のことばっかり追いかけてさ。最初は正直、どうしていいか分からなくて冷たくしちゃった。……でも、どれだけ突き放しても、俺が困ってる時はいつも一番に気づいて、ずっと一途に味方でいてくれただろ?」
はるやはノートを愛おしそうに見つめ、それから真っ直ぐにりんかの瞳を見つめ返した。その瞳には、もう嫌悪感なんてカケラもなかった。あるのは、愛おしさと、確かな熱量。
「気がついたら、お前が話しかけてこない日が、めちゃくちゃ寂しくなってたんだよ。……俺もお前のこと、好きになっちゃった」
「――え……っ!?」
「だから、その日記の続き。これからは俺も、毎日たくさん書くから。……よろしくね、りんか」
その瞬間、はるやはりんかの小さな手を、ギュッと力強く握りしめた。差し出されたはるやの手のひらは、驚くほど温かかった。
ずっと届かないと思っていた、はるやの心。どれだけ不器用でも、あきらめずに真っ直ぐに想い続けた初恋が、京都の美しい夕焼けの中で、ついに奇跡を起こしたのだ。
嬉しさと感動で、りんかの目から大粒の涙がポロポロと溢れ出す。はるやは「泣くなよ〜(笑)」と言いながら、空いた方の手で優しくりんかの涙を拭ってくれた。
手元にある、二人の交換日記。
明日からはもう、白紙のページなんて残らない。二人で紡ぐ、最高に幸せな未来の言葉で、いっぱいに埋め尽くされていくのだから――。
琥珀の時計が止まるとき
今回もアイドルなしです。
校長室の前には、ずっと昔から壊れている古い振り子時計がある。 茶色く色あせた木枠の中の針は、いつも四時五分を指したまま動かない。クラスの誰も、その時計が動いているところを見たことがなかった。
「また明日ね!」 放課後、夕日が教室をオレンジ色――琥珀色に染める時間。私、さくらは忘れ物を取りに、一人で誰もいない廊下を歩いていた。ふと、その時計の前で足が止まる。 なぜかその日は、夕日の光が時計のガラスに反射して、キラキラと怪しく輝いて見えた。
吸い寄せられるように、私はそのガラスにそっと右手を触れた。
「ゴーーーン……」
鳴るはずのない重い鐘の音が、頭の奥に響いた。 その瞬間、世界から一切の「音」が消えた。 窓の外で揺れていた木々が止まり、校庭から聞こえていた野球部の声も消えた。廊下の雨漏りの水滴が、床に落ちる手前で、まるで透明なビー玉のように空中に浮いて止まっている。
「え……? みんな、どうしたの?」
慌てて教室に戻ると、ゆながカバンを持った形のまま、ピタッと人形のように固まっていた。 世界の時間が、完全に止まってしまったのだ。
心臓の音だけがドクドクと大きく響く。怖くなった私は、大好きな担任の櫻井先生を呼びに行こうと、静まり返った職員室のドアを押し開けた。
「櫻井先生! 大変なの、時間が……」
叫びかけた声が、喉の奥で詰まった。 職員室の奥の席。いつもは笑顔で、完璧にクラスをまとめてくれる櫻井先生が、自分の机で頭を抱え、今にも泣きそうな顔のまま固まっていた。
櫻井先生の目からは、一滴の涙がこぼれ落ちそうになって止まっている。 その手元には、私たちの「連絡帳」と、先生の「日記」が開かれていた。こっそり覗いた日記には、櫻井先生の小さく震えた文字が並んでいた。
『今日はみんなを厳しく叱りすぎてしまった。もっと違う言い方があったはずなのに。私は、良い先生になれているのだろうか。クラスのみんなが大切なのに、空回りばかりで、毎日が不安でたまらない』
胸が、ギューッと締め付けられた。 櫻井先生はいつも大人で、何でもできる無敵の人だと思っていた。でも、違ったんだ。私たちと同じように悩んで、傷ついて、放課後に一人で涙を流すくらい、一生懸命がんばってくれていたんだ。
「櫻井先生……」
私はポケットから、今日渡すはずだった、クラスのみんなからの「お誕生日おめでとうカード」を取り出した。そこには『櫻井先生大好き!』『いつもありがとう』という言葉が、カラフルなペンでたくさん書かれている。
私は櫻井先生の止まった涙をハンカチでそっと拭い、その温かい手のひらに、メッセージカードをそっと挟み込んだ。
「櫻井先生、いつも本当にありがとう」
もう一度校長室の前に走り、時計のガラスに触れて、止まっていた振り子をぐっと右へ動かした。
カチ、カチ、カチ……。
「――っは!」 世界に音が戻った。窓の外から鳥の声が聞こえ、廊下の水滴が床に落ちて弾けた。
翌朝、ガラッと教室のドアが開いて、櫻井先生が入ってきた。 先生の目は少し赤かったけれど、その表情は、いつもの何倍もスッキリとした優しい笑顔だった。先生の手には、あのカードが大切そうに握られている。
教壇に立った櫻井先生と、一瞬、目が合った。 先生はちょっと驚いた顔をしたあと、私にだけわかるように、愛おしそうに小さく微笑んで頷いてくれた。
琥珀色の世界がくれた、私と櫻井先生だけの、秘密の宝物だ。
終
世界が静寂に包まれても、君の声が聴こえる
今回は2023年に上映されていた「夜が明けたら、いちばんに君に会いに行く」風小説を書きました。あまり本家のパクリにならないよう気をつけました。
第一章:ノイズだらけの世界と、白い盾
高校二年生の宮坂真央(みやさか まお)の耳元には、いつも白いワイヤレスイヤホンがある。 けれど、そこからは何も流れていない。ただの「静寂」だ。
中学時代、一番の親友だと思っていた子から「真央っていつも綺麗事ばっかりで本音が分からなくて不気味」と陰口を叩かれて以来、真央は他人の顔色を過剰に窺うようになった。 家でも同じだった。母親の再婚相手である新しい父親と、その連れ子で優秀な弟。ギクシャクしたリビングで、真央は「お邪魔虫」にならないよう、物分かりの良い優等生を演じて息を潜めている。 他人の悪意を聴かないため、そして家でも学校でも「私は今、音楽に夢中なので話しかけないでください」というバリアを張るため、彼女にとって白いイヤホンは、心を隠すための絶対の盾だった。
ある日の放課後。クラスの女子たちに無理やり押し付けられたプリントの束を抱え、真央は誰もいないはずの旧校舎の放送室へと向かった。 しかし、重い木製の扉を開けた瞬間、鼓膜を揺らしたのは音楽ではなく、すさまじい「音」の嵐だった。
ザーーー、という激しい雨の音。ザワザワと木々が揺れる風の音。 スピーカーの前で、古いカセットデッキを真剣な目で見つめていたのは、クラスでも孤高の一匹狼として知られる、瀬戸拓海(せと たくみ)だった。
「な、何してるの……?」 思わずイヤホンを外して尋ねた真央に、拓海はひどく冷めた視線を向けた。そして、真央の耳元で揺れる白いイヤホンと、いつもの「貼り付いたような愛想笑い」をじっと見つめ、吐き捨てるように言った。
「お前、何のためにそれ着けてんの? そうやって一生、自分の心に耳を塞いで、嘘の笑顔で生きてくわけ? ……気持ち悪い」
拓海の鋭い言葉は、真央が必死に守ってきた盾を容赦なく叩き割った。最悪の出会いだった。
第二章:秒針の音と、過去のメロディ
それからというもの、拓海はなぜか放課後になると真央を捕まえ、「音集め」に付き合わせるようになった。 彼はいつも小さなレコーダーを持ち歩き、錆びた自転車のブレーキ音、水たまりを跳ねる足音、夕暮れのチャイムなど、日常のあらゆる音を必死にカセットテープに記録していた。
「なんで、そんなものを集めてるの?」 ある日、放課後の屋上で尋ねた真央に、拓海はぶっきらぼうに答えた。 「残したいから。今、ここに俺が生きてる証として、この世界の綺麗な音を全部、閉じ込めておきたいんだ」
拓海の飾らない、剥き出しの本音に触れるうち、真央の固く閉ざされていた心が少しずつ変化していく。彼の前でだけは、無理に笑わなくてもいい気がした。 そしてある時、真央は拓海のレコーダーから流れた古いピアノのメロディを聴いて、ハッとする。それは、彼女が小学生の頃、実の父親を亡くして病院の中庭で泣いていた時、通りすがりの男の子が「これ聴きなよ」とカセットプレーヤーを差し出してくれた、あの思い出の曲だった。
(まさか、あの時の……?) 真央が気づいたのと同時期、真央は拓海が耳の後ろを触って顔を顰める瞬間を何度も目撃する。そして彼の鞄からこぼれ落ちた、大学病院の診察券と大量の薬。
拓海には、誰にも言えない秘密があった。 彼は幼い頃に脳腫瘍(聴神経の腫瘍)を患っていた。手術と治療によって一命を取り留め、現在は寛解しているものの、医師からは「いつ再発して、完全に聴力を失うか分からない」と告げられていたのだ。 彼が時間を惜しむように音を集めていたのは、いつか訪れるかもしれない「完全な静寂」に怯え、生きた証を残すためだった。 そして拓海自身も、あの幼い日に病院の中庭で、絶望していた自分に「誰か、私を見つけて!」と必死に声を上げていた少女――真央の「声」に救われ、もう一度生きようと思えた過去をずっと覚えていたのだった。
第三章:嵐の屋上、剥がされるイヤホン
季節が秋に変わる頃、恐れていた事態が起きる。 拓海の定期検診の結果が悪く、再発の兆候が見られたのだ。突如として襲う激しい耳鳴りと、徐々に遠ざかっていく周囲の音。絶望した拓海は学校へ来なくなり、お気に入りのレコーダーもカセットテープもすべて部室に置き去りにされた。
「もう俺に関わるな。そのうち、お前の声だって聴こえなくなるんだ」
雨が叩きつける放課後、ようやく屋上で見つけた拓海は、自暴自棄になって真央を突き放した。突き放されてもなお、必死にすがりつこうとする真央に、拓海は「いつも偽物の笑顔で、他人の顔色ばっかり伺って生きてるお前に、俺の気持ちがわかるわけない!」と、出会った頃のような鋭い言葉をぶつけてしまう。
その瞬間、真央の頭の中で、張り付いていた優等生の仮面が完全に砕け散った。 今まで誰にも言えなかった、抑え込んできた苦しみが涙とともに溢れ出す。
「わかるわけないよ……! でも、そうしなきゃ居場所がなかったの! 傷つかないように盾を張って、嘘でも笑って、私はこういう風にしか生きられないの……! だからって、あんたの絶望まで見過ごせるわけないじゃん!!」
真央は、自分の両耳からずっと手放せなかった白いイヤホンを激しくむしり取り、地面に投げ捨てた。そして、激しい雨の音に負けないよう、人生で一番の大きな声を張り上げた。
「聴こえなくなっても関係ない! だったら、私が何度だって君の名前を呼ぶ! 君の世界からすべての音が消えたって、私の声を、君の鼓膜に、心に、直接焼き付けにいくから!!」
雨に濡れながら、生まれて初めて本当の感情を爆発させて泣く真央。 拓海は目を見開いた。その姿は、あの幼い日に自分の心を救ってくれた、あの少女の声そのものだった。
「……ずるいな。そんな声で泣かれたら、諦められるわけないだろ」
拓海は一歩近づき、真央を強く抱きしめた。 「もし明日、世界が静寂に包まれても……俺は、お前の声だけは絶対に忘れない」
激しい雨の中、二人はお互いの孤独を分かち合い、本当の意味で救い合って、生きる約束を交わした。
終章:夜が明けたら、いちばんに
「夜が明けて、世界が静寂に包まれる前に、いちばんに君の声を聴きにいきたい」 それは、拓海がノートの隅に書き残していた言葉だった。拓海にとって、いつ音が消えるか分からない恐怖(夜)の先で、自分を世界に繋ぎ止めてくれる唯一の光(夜明け)こそが、真央の声だった。
それから数年の月日が流れた。
大学のキャンパスに近い、緑豊かな並木道。 就職活動のスーツに身を包んだ真央は、あの頃のような「怯えた優等生」の顔をしていなかった。他人の目を恐れず、自分の言葉で想いを伝えるため、メディア関係の仕事を目指して堂々と前を向いている。
「真央」
後ろから聞き馴染んだ、少し低い、だけど世界で一番愛おしい声が響く。 振り返ると、そこには少し大人びた拓海が立っていた。 幸いにも、拓海の病気は適切な治療によって進行が抑えられ、現在も彼の耳は世界の音を捉え続けている。彼は今、音響エンジニアとしての道を歩み始めていた。
拓海はふっと微笑むと、自分のポケットから一つのワイヤレスイヤホンを取り出し、その片方を優しく真央の耳に差し込んだ。もう片方は、自分の耳へ。
流れてきたのは、かつて二人があの屋上で聴いた、風と、雨と、お互いの笑い声が混ざり合った、大切な世界の音。
「次の休みさ、また音、集めに行こう。二人で」 「うん、行こう。拓海」
もう、耳を塞ぐためのイヤホンはいらない。二人はしっかりと手を繋ぎ、どこまでも広がる青空の下を、お互いの声を響かせながら歩き出していった。
夕暮れのひみつ基地と、空飛ぶ木の実
今回はアイドルなしの、ほっこりするお話です
森の大きなクヌギの木の上には、だれにも内緒の「ひみつ基地」がある。
そこに暮らしているのは、大きな目がチャームポイントのフクロモモンガのモモ。そして、その木の下の根元に住んでいるのが、のんびり屋だけど心優しいハリネズミのハリーだ。
体も、住む場所も、得意なことも全然ちがう2匹だけど、大の仲良しだった。
「ハリー、おーい! 今日もいい天気だね!」
夕方、目を覚ましたモモが、木の上の特等席から身を乗り出して手を振る。
「あ、モモ、おはよう。……ううん、僕たちにとっては『こんばんは』かな?」
ハリーが丸い体をゆらしながら、地面から見上げて微笑んだ。モモは夜行性だから、夕方が一日の始まりなのだ。
二人のすれ違い
ある秋の日のこと。2匹はひみつ基地で、森で一番おいしいと言われる幻の木の実「コハクの実」を食べる約束をしていた。コハクの実は、夕日が沈むほんのわずかな時間だけ、キラキラとハチミツ色に輝く不思議な木の実だ。
「ハリー、僕、一番おいしいコハクの実を探してくるよ!」
モモはそう言うと、自慢の皮膜(ひまく)をいっぱいに広げ、風に乗ってジャンプした。夕暮れの空をスーッと美しく飛んでいく。
一方、地面にいるハリーは、モモのように飛ぶことはできない。
「いいな、モモは。あんなに遠くまで一瞬で行けて……」
ハリーは少しだけうらやましく思いながら、トコトコと短い足で歩き出した。モモが戻ってくるまでに、ひみつ基地をきれいに飾りつけして驚かせようと思ったのだ。ハリーは得意の針を上手に使って、色鮮やかな落ち葉をたくさん背中に刺して集めた。
ところが、ハリーが基地の準備を終えて待っていても、モモはなかなか帰ってこない。
「どうしたんだろう……。もうすぐ夕日が沈んじゃうのに」
トラブル発生!
その頃、モモは焦っていた。
森の奥の崖の上で、最高のコハクの実を見つけたまではよかった。しかし、欲張って大きな実を両手で抱えたせいで、うまく風に乗れず、下のトゲだらけの茂みに落ちてしまったのだ。
「う、動けない……。トゲが羽に引っかかって、飛べないよ……!」
もがけばもがくほど、トゲが絡みつく。太陽はどんどん沈んでいく。
「ハリーとの約束があるのに。このままだと、コハクの実が光らなくなっちゃう……」
モモが泣きそうになっていた、その時だ。
「モモーー! どこにいるのーー!?」
遠くから、聞き慣れた声がした。ハリーだ。いつもはのんびり屋のハリーが、息を切らして走ってきたのだ。木の上からモモが飛んでいく方向を見ていたハリーは、異変に気づいて追いかけてきてくれたのだった。
「ハリー! 来ちゃダメだ、ここはトゲがいっぱいで危ないよ!」
「大丈夫、僕にまかせて!」
ハリーはきゅっと目を閉じると、体をボールのように丸めた。そして、トゲの茂みに向かって、勢いよくゴロゴロと転がっていったのだ。
バリバリバリッ!
ハリーの背中にある固くて丈夫な針が、モモを苦しめていたトゲの草を、次々となぎ倒していく。ハリーの針は、トゲの痛みをまったく寄せ付けなかった。
「ふう、お待たせ、モモ!」
顔を上げたハリーの鼻の頭には、少し泥がついていたけれど、最高にかっこよかった。
「ハリー、すごい! ありがとう!」
最高の「こんばんは」
2匹は急いでクヌギの木のひみつ基地へと戻った。
ハリーが飾りつけた色とりどりの落ち葉のステージに、モモが命がけで守ったコハクの実を置く。
その瞬間、山の向こうに夕日が沈み、最後の光が実を照らした。
「わあ……!」
コハクの実は、まるで小さな太陽のように、優しく、温かいオレンジ色に輝き出した。あたり一面が、あま〜い香りでいっぱいになる。
2匹は顔を見合わせ、半分こにしてコハクの実をかじった。口の中に、とろけるような甘さが広がる。
「僕、ハリーみたいに強くてかっこいい針があったらいいなって思ったよ」
モモが実をモグモグさせながら言った。
「僕は、モモみたいに空を飛べたら素敵だな、っていつも思ってるよ」
ハリーも嬉しそうに針をゆらす。
「お互い、自分にないものを持ってるから、助け合えるんだね」
すっかり暗くなった夜の森。ひみつ基地の窓からは、満天の星空が見えていた。ちがう動物だからこそ、最高の相棒になれる。2匹は並んで、新しく始まった夜の時間を、いつまでも楽しそうに過ごした。
世界一短いラブレター
「ただいま」
返事はない。鍵をかけたはずのドアを開けると、部屋の中はすっかり片付いていた。 彼女の荷物は、文字通り一つも残っていなかった。
付き合って三年。同棲して二年。 最近の僕たちは、すれ違ってばかりだった。言葉を交わすことも減り、一緒にいるのにどこか遠い。そんな限界を、彼女のほうが一足先に迎えたのだろう。
リビングのローテーブルの上に、ぽつんと一枚の便箋が置かれていた。 別れの手紙だ、と直感した。
「責める言葉が書いてあるのだろうか。それとも、ありきたりな感謝の言葉だろうか」
重い足取りで近づき、便箋を開く。そこには、彼女の几帳面な文字で、たったの一行だけ書かれていた。
「あなたの『おかえり』が、もう一度聞きたかったな」
心臓がドクンと跳ねた。 彼女が家を出たのは、僕を嫌いになったからじゃない。僕が彼女を孤独にさせていたからだ。僕が彼女の「ただいま」を、何度も無視して、スマホの画面ばかり見ていたからだ。
「……バカだな、僕は」
涙が溢れて、視界が滲む。 でも、まだ間に合うかもしれない。彼女の荷物がなくなってから、それほど時間は経っていないはずだ。
僕は便箋をポケットに押し込み、部屋を飛び出した。 エレベーターを待つ時間すらもどかしく、階段を駆け下りる。
夜の街に飛び出し、彼女がいつも使う駅への道を全力で走った。心臓が破れそうだった。息が苦しかった。それでも、あのたった一行の「ラブレター」が、僕の背中を強く押し続けた。
改札の手前、見覚えのある小さな背中と、大きなスーツケースが見えた。
「――っ!」
声にならなかった。僕はただ走り寄り、彼女の肩を掴んだ。 驚いて振り向いた彼女の瞳には、みるみるうちに涙が溜まっていく。
僕は、喉の奥から絞り出すように、世界で一番伝えたかった言葉を口にした。
「おかえり」
彼女は一瞬目を見張り、それから、くしゃくしゃの笑顔で泣いた。
「……ただいま」
僕たちの恋は、この短すぎる手紙のおかげで、もう一度始まった。
ICARUS(イカロス) 〜君へと続く、壊れた翼〜
1. 遠い光
僕たちの背中には、真っ白な一対の翼がある。 雲の上にある「空の国」に住む僕らは、その翼で風をきり、どこまでも自由に飛ぶことができた。
けれど、僕には自由なんてどうでもよかった。ただ一人、地上の街に暮らす「光(ひかり)」という名の女の子に恋をしてしまったから。
光は、まるで太陽みたいな子だった。彼女が笑うと、暗い世界もいっぺんに明るくなる。僕はいつも雲のすき間から、彼女のことを見つめていた。
「蓮(れん)、あの子に近づいちゃダメだよ」
年上の仲間が、僕の白い翼を優しくなでながら言った。
「僕たちの翼はね、太陽の熱に弱いんだ。地上に降りて、あの眩しい光に近づきすぎたら……熱さで羽がすべて溶けて、二度と飛べなくなってしまうんだよ」
それは、空の国の絶対のルール。 届かないからこそ、美しく輝いて見える。僕はただの『イカロス』。遠くから見つめるだけの、臆病な鳥だった。
2. 嵐の夜に
その日は、突然やってきた。
激しい地響きとともに、地上を真っ黒な嵐が襲った。激しい雨と風が街を飲み込み、光のいる場所がどんどん闇に包まれていく。
雲の上から覗き込むと、光が一人、激しい嵐の中で震えていた。彼女のまわりの輝きが、今にも消えてしまいそうだった。
「光……!」
気がつけば、僕は崖のふちに立っていた。
「おい、蓮! 狂ったのか!?」 「今行ったら、お前の翼はボロボロになって落ちるぞ!」
後ろから仲間たちが叫ぶ。だけど、僕の耳には届かなかった。 彼女のいない世界で、僕一人が綺麗な翼を持って生きていくことに、何の意味があるっていうんだろう。
「翼なんて、いらない」
僕は叫んだ。
「僕のすべてを失っても……僕は、君を救いに行くんだ!」
強く地面を蹴った。僕は真っ逆さまに、激しい闇の嵐へと飛び込んだ。
3. 君しか見えない
風がナイフのように僕の体を切りつける。 地上に近づくにつれて、光が放つ「太陽の熱」が、僕の体をじりじりと焼き始めた。
熱い。痛い。 背中から、パチパチと音が聞こえる。 僕の大切な白い羽が、1枚、また1枚と焦げて、夕焼けのような真っ赤な炎に包まれていく。羽が溶けて、ボロボロとちぎれて空に舞う。
「うああああっ!」
激しい痛みに、意識が遠のきそうになる。 だけど、目を閉じちゃダメだ。 暗闇の向こうで、泣きそうな顔をしている光が見える。
『君しか見えない。君が、僕の世界のすべてだから――』
心の中で何度もそう叫んだ。 僕はちぎれかけた翼を必死に動かし、痛みを忘れてスピードを上げた。ただ真っ直ぐに、光の元へと落ちていく、一筋の流れ星のように。
4. 落ちていく先で
「危ない!」
ドン、と強い衝撃が響いた。 僕は光の体を抱きしめ、激しい嵐から彼女をかばうように地面にしがみついた。
その瞬間、僕の体から溢れた強い気持ちが、眩しい光となって周囲の闇を吹き飛ばした。嵐は去り、街に本当の静けさと、明るい光が戻ってくる。
「……あ、ありがとう……。でも、あなたの背中……」
光が、涙をためた目で僕の背中を見た。 僕の背中にあった綺麗な白い翼は、もう一枚も残っていなかった。熱で全て溶けてしまい、ただの傷跡だけが残っている。
「もう、飛べないや……」
僕は力尽きて、そのまま地面に倒れ込みそうになった。 空の国の住人が羽を失うということは、もう二度と空へは帰れないということだ。
だけど。 倒れそうになった僕の体を、光の温かい両手がそっと受け止めてくれた。
「これからは、私があなたの翼になる」
光は僕の目をまっすぐ見て、優しく微笑んだ。 その笑顔は、空の上から見ていたルールの世界のどの景色よりも、ずっとずっと綺麗だった。
僕はもう、空を飛ぶイカロスじゃない。 これからはこの足で、大好きな君の隣を、どこまでも一緒に歩いていくんだ。
きみの軌道に、ひかりを灯す
無機質な白い病室。小学6年生のわかなの毎日は、窓から見える空の広さだけで測られていた。 白血病の治療は痛くて、怖くて、時々すべてを投げ出したくなる。
そんな彼女の唯一の救いは、画面の中で輝くWEST.の藤井流星だった。 彼のパフォーマンスを見る時間だけは、病気のことを忘れられた。
「……本物?」
ある日、特別なチャリティー企画で、流星が病室にやってきた。 息を飲むわかなに、流星はあの眩しいクシャッとした笑顔を向けた。
「初めまして、わかなちゃん。会いに来たで」
緊張するわかなの隣に座り、流星は目線を合わせて色んな話をしてくれた。 ダンスのこだわり、お気に入りの音楽、そして、わかなが今頑張っている治療のこと。
「私、髪の毛も抜けちゃったし、みんなみたいに学校にも行けない……」
思わずこぼれた涙に、流星は優しく、でも力強い声で答えた。
「関係ないよ。わかなちゃんが今、一生懸命生きてる姿、めちゃくちゃかっこいい。俺な、ステージからいつも応援してるから。離れてても、ずっとチームやで」
そう言って、彼は自分の胸に手を当てた。
それから数か月後、わかなの体調が良い日に、1日だけの外出許可が出た。 向かったのは、WEST.のライブ会場。
暗転した会場で、わかなは精一杯ペンライトを振った。 ステージの上、スポットライトを浴びる流星と、一瞬、確かに目が合った気がした。 彼は客席の隅を見つめ、うん、と深く頷き、一段と高く跳んだ。
病室に戻ったわかなのノートには、新しい未来が綴られている。 『絶対に病気に勝って、今度は私の足で、また流星くんに会いに行く』
窓の外には、あの日流星が教えてくれた、どこまでも続く青空が広がっていた。
僕たちは、信号機
白く無機質な病室の窓辺には、いつも3つの小さな植木鉢が並んでいた。
僕、アオと、ハルと、アキ。同じ小児病棟で出会った僕たちは、いつしか自分たちを「信号機トリオ」と呼ぶようになった。青色の鉢はいつも前を向いて歩く僕、黄色の鉢はみんなを照らすムードメーカーのハル、赤色の鉢は静かにたたずむアキ。
「ねえ、3人揃えば、どんな交差点も怖くないよね」
ハルがいつものように無邪気に笑った。僕たちの病気は、どれもゴールが見えない暗いトンネルのようだったけれど、3人でいる時間だけは、外の世界の青空よりも輝いていた。
けれど、季節がめぐるのは早すぎた。 最初にアキの赤信号が消えた。静かに、だけど燃え尽きるように。 次にハルの黄信号が、小さく明滅したあとに眠りについた。
最後に残されたのは、僕の青信号だけだった。
「なんで僕だけが、進まなきゃいけないんだよ……」
一人きりの病室で、僕は2つの空っぽの植木鉢を抱きしめて泣いた。3人組(トリオ)じゃないなら、もう前に進む意味なんてない。そう絶望していたある日、看護師さんが1通の手紙を届けてくれた。ハルが遺した、最後のメッセージだった。
「青くんへ。僕とアキの信号は止まっちゃったけど、それは青くんに『ずっと進んでいいよ』って伝えるためだよ。3人分の未来を、青くんが歩いて。僕たちはいつだって、君の心の中で点滅してるからね」
窓辺を見ると、ハルとアキの鉢植えから、小さな緑の双葉が顔を出していた。
僕は涙を拭い、車椅子から立ち上がる。足元はまだおぼつかないけれど、窓の向こうには、果てしない青空が広がっていた。
「行ってくるね」
僕の胸の中で、今も3人の信号は、優しく、強く、輝き続けている。
GIRLS LIGHT UP!〜私たちが掴む未来〜
第1章:運命のレベル分け(3人一緒のスタート)
いつも学校で一緒にいる私、りんかと、わかな、ゆいなの3人は、大きなオーディション番組の会場にいた。
まわりは大人っぽくて可愛い女の子ばかり。実力もトップクラスのゆいなでさえ、「どうしよう、私なんて絶対無理...」とガタガタ震えている。
「大丈夫だよ!楽しもう!」
そう言って、キラキラの笑顔で私たちにお菓子を配ってくれたのは、愛嬌満点のわかなだった。わかなの笑顔を見ると、不思議と緊張が消えていく。
いよいよ3人のレベル分けテストの本番。
私は大好きな歌声を響かせたけれど、ダンスで少し出遅れてしまう。ゆいなは歌もダンスも完璧なのに、自信がなさそうな顔。わかなはステップを間違えちゃったけど、カメラに向かって最高のウィンクを決めた。
審査員の評価はバラバラだった。ゆいなは最高のAクラス。私は真ん中のCクラス。わかなは一番下のFクラス。
いつも一緒だった3人が、初めてバラバラのクラスのTシャツを着ることになった。その夜、宿舎のベッドで私たちは手を繋いだ。
「クラスは離れちゃったけど、最後にデビューする時は、絶対3人一緒だよ!」
第2章:グループバトルの嵐(新しい仲間と、それぞれの壁)
最初の課題は、グループバトル。ここで私たちは、それぞれ新しい仲間と出会うことになる。
私のチームには、歌が大好きだけどダンスが苦手なあいり、かなで、ほのかが集まった。「歌うま同盟だね!」なんて笑い合ったけれど、ダンスのレッスンが始まると全員パニック。ロボットみたいな動きになってしまい、トレーナーから「やる気あるの?」と厳しく怒られてしまう。
一方、Fクラスのわかなは、真面目でダンスが大得意なこはると同じチームになっていた。
真面目すぎるこはるは、ダンスができない子たちに焦りを感じて、チームの空気はギスギス。
でも、そこで折れないのがわかなだった。「こはるちゃん、今のステップ、もう一回教えて!」と満面の笑顔で突撃。わかなのガッツと愛嬌に、こはるの心もほぐれ、チームは「夜の居残り練習」で一つになっていった。
Aクラスのゆいなは、何でもできるオールラウンダーのみさきと同じチームになり、自分の実力をどんどん引き出されていた。
第3章:涙の順位発表と、ゆいなの覚醒
最初の順位発表式。なんと、実力はまだまだだけど「笑顔が可愛すぎる!」とSNSでバズったわかなが、デビュー圏内の上位にランクインした。
しかし、ネットでは「実力がないのに何で?」と厳しい声が書かれてしまう。
控室の隅で、一人で声を殺して泣いているわかな。
「わかな.......!」
私とゆいなは、わかなの元へ駆け寄って抱きしめた。
「わかなの笑顔に、私がどれだけ救われたか知ってる!?自信持って!」私が叫ぶと、いつも弱気だったゆいなが、力強い目で言った。
「そうだよ。わかながバカにされるのは絶対に嫌。次のポジションバトル、私がわかなに歌を教える。完璧にしてみせるから!」
ゆいなの目が、初めてガチになった瞬間だった。
第4章:殻を破ったコンセプトバトル
ついに運命のコンセプトバトル。曲は、激しいダンスと高い歌唱力が求められる難関曲。
なんと、今回のチームには、私たち3人(わかな、ゆいな、りんか)に加えて、こはる、みさき、あいり、かなで、ほのか......そう、仲良くなった8人全員が同じチームになったのだ!
「この8人で、最高のステージを作ろう!」リーダーのみさきが声をあげる。
歌の練習では、合唱部だった私(りんか)と、あいり・かなで・ほのかが先生になった。ダンスの練習では、こはるとみさきが、私たちの手足を引っ張って何度もステップを合わせてくれた。
本番のステージ。イントロが流れた瞬間、私たちは一つになった。ステージが終わった瞬間、会場は割れんばかりの歓声に包まれた。私たちは舞台裏で、全員で大号泣しながら抱き合った。
第5章:約束のステージ(全員でデビューへ!)
そして迎えた、運命のファイナルステージ。
生放送のピリピリした空気の中、私たちは最後のパフォーマンスを終え、祈るように順位発表を待っていた。
1人ずつ名前が呼ばれていく。
ダンスでみんなを引っ張ったこはる、みさき。
圧倒的な歌声で会場を魅了したあいり、かなで、ほのか。
そしてーー。
「3位、りんか!」
私の名前が呼ばれた。涙で前が見えない中、ステージのデビュー席へ歩く。
残るはあと2枠。
「2位......ゆいな!」
ついに自分を信じることができたゆいなが、胸を張ってステージに上がる。
そして、最後の1人。
「最後のデビューメンバーは.....わかな!」
会場中に大歓声が響く。わかなは一瞬びっくりした顔をして、それから、いつもの世界一可愛い笑顔で「ありがとうございました!」と頭を下げた。
ステージの上で、私たちはもう一度、きつく抱きしめ合った。
クラスが離れて泣いた夜、一緒に遅くまでダンスをした夜、歌を教え合った日々。全ての努力が、今、この瞬間に繋がった。
「みんな、大好き!これからもずっと一緒だよ!」
8人の少女たちの物語は、ここから新しく、世界に向けて始まっていくーー。
🎧 番組テーマ曲:『GIRLS LIGHT UP!』
GIRLS LIGHT UP!〜私たちが掴む未来〜のテーマ曲です
【イントロ】
[全員] Light up! up! 私たちの未来 Spotlight 浴びて、今、輝き出すの!
【1番】
[わかな]鏡に映る 頼りない私 ステップも、メロディも、まだ上手くできないけれど
[りんか]「歌うことが大好き」 その気持ちだけで 高い壁の向こう側 飛び込んでみたんだ
[こはる]流した汗の数だけ 変わる世界 甘えは捨てて、今、限界を超えてゆく
[あいり・かなで・ほのか] クラスの色の違いに 焦る日もあるけれど (A〜Fクラスの葛藤)
[ゆいな・みさき]見上げたあのステージへ 絶対に、君と行くんだ!
【サビ】
[全員] GIRLS LIGHT UP! 涙の向こうで キラめく夢が、ほら、私たちを待っている GIRLS LIGHT UP! ぶつかり合っても 繋いだこの手は、もう絶対に離さない!
バラバラの光が集まって星座を描くように 私たちが、新しい時代(みらい)を照らすよ! (It’s Show Time!)
【2番】
[ゆいな]「完璧」なんて言葉に 縛られていた 正解を探す程 迷路に迷うけれど
[みさき]隣を見れば いつだって君がいて 笑い合えるから どこまででも走れる
[わかな]ヘタクソだっていいじゃん! ([全員] いいじゃん!) この笑顔は世界一!
[りんか・こはる]苦手なステップも、君が教えてくれたから
[あいり・かなで・ほのか] 一人じゃ届かない場所も
[ゆいな・わかな] 8人なら、奇跡に変わる!
【ラストサビ】
[全員] GIRLS LIGHT UP! 世界中に届け 始まったばかりの、私たちのストーリー GIRLS LIGHT UP! 諦めないよ 全員で掴むんだ、あの輝くステージ!
[りんか]Ah〜〜〜! 夢を叶えるの!
[全員] 私たちが、新しい世界を照らすよ!
【アウトロ:番組のエンディングポーズへ】
[わかな]私を見つけて。
[全員] Light up your heart!
ポーズ
1. 「Light up your heart!」の瞬間(胸元で光を灯す)
まず、全員が片手を胸の前に持ってきます。 親指と人差し指で綺麗な「L(ライトのL)」の形を作り、それをハートの形に見立てて胸の前にそっと添えます。 「自分の心(ハート)に夢の灯りをともす」という意味が込められた、少し切なくも強い意志を感じる表情にぴったりのポーズです。
2. ラスト(天に向かって光を掲げる)
最後の音が鳴り響くと同時に、胸元にあったその「L字の手」を、一斉にまっすぐ夜空(天井)に向かって突き上げます。 人差し指が綺麗に天を指す形になり、まるで8人の指先から未来を照らすレーザービームが伸びているような、力強く眩しいシルエットになります。
青春カルピス
夏の夜の匂いがした。
浴衣の裾が足元にまとわりつくたび、鼓動がうるさく跳ねる。
待ち合わせの鳥居の前に立っていたのは、思い描いていた理想の未来ではなく、残酷な現実だった。
「なんでお前いんの!?」
たくみのその一言で、りんかの足元が崩れ落ちるような気がした。
目の前で、たくみは焦りと動揺を隠しきれない顔をしている。その隣で、こはるが怯えたようにたくみの袖をギュッと掴んでいた。
――夏祭りに誘われたのは、こはるだった。
「二人きりなんて緊張しちゃうから、りんかちゃんも一緒に行こ?」
そう言われて、りんかは断れなかった。大好きな親友のお願いだったから。それに、こはるがたくみのことを好きだということも、りんかは知っていた。だからこそ、自分の奥底にある恋心に蓋をして、二人のキューピッドのつもりでついてきたのだ。
けれど、たくみにとっては違った。
彼は今日、こはるに想いを伝えるために、すべてを賭けていた。二人きりで歩くはずだった境内。思い描いていた計画をすべて台無しにされたたくみは、怒りと焦りから、思わずりんかにキツイ声を荒げてしまった。
「ごめん、私……」
言い訳をしようとしたけれど、たくみの冷ややかな目と、怯えるこはるを見て、りんかはそれ以上言葉を飲み込んだ。
邪魔をしているのは自分だ。最初から来るべきじゃなかった。
「ちょっと、ジュース買ってくる」
震える声を必死に隠して、りんかは二人のもとを離れた。
打ち上げ花火が始まる前の、一番浮かれた時間。周りを見渡せば、浴衣を着たカップルや、楽しそうにはしゃぐ友達ばかりが目に付く。ひとりぼっちになったりんかは、人の波に流されるように、縁日の隅にある小さなカルピス屋台の前に立ち止まった。
「お嬢ちゃん、カルピスふたつね。はいよ!」
白髪交じりのおっちゃんが、威勢のいい声で笑う。
出てきたのは、冷たくて白い液体がたっぷり入ったプラスチックのカップがふたつ。
「彼氏と飲むのぉ? いいねぇ、青春って!」
おっちゃんは冷やかそうに、カラカラと笑った。
「あ、えっと……ちがっ……」
「いいんだよ、照れんなって。頑張った後に飲むと美味しいんだよ、これ!」
おっちゃんはニコニコしながら、「サービスしとくよ」と代金を受け取らずにふたつのカップをりんかに持たせた。その温かい厚意が、今の傷ついたりんかの胸にはあまりにも痛かった。
トボトボと元の場所へ戻ろうとしたとき、少し離れた人だかりの中で、たくみとこはるの姿が視界に入った。
たくみが、こはるの手を取っていた。
周りの喧騒が、スッと遠ざかる。こはるが恥ずかしそうに小さくうなずき、たくみがホッとしたような、愛おしそうな顔で笑って彼女を引き寄せた。
――あぁ、そっか。
りんかは足を止めた。一歩も、前に進めなくなった。
ふたりの世界ができあがっているそこには、もう自分の入り込む隙間なんてどこにもなかった。
たくみはずっと、こはるだけを見ていたのだ。最初から、りんかの居場所などなかった。
手元のトレイの上で、ふたつのカルピスがカラリと揺れる。
ひとつは、たくみに渡すはずだったもの。
もうひとつは、自分のためのもの。
「……おめでとう、ふたりとも」
声には出さず、唇だけでそう呟いて、りんかはそっと背中を向けた。
祭りの音が遠ざかる暗がりの中で、冷たくなったカルピスにストローを差す。
ひとくち飲むと、自分の涙が混じったのか、甘いはずのそれは胸の奥がキュッと締め付けられるほどにしょっぱかった。
「一緒に、飲みたかったなぁ……」
空の向こうで、ドン、と重い音がして最初の一発目の花火が夜空に咲いた。
りんかはその光を見ないようにして、ただ俯いたまま、冷たいカルピスを喉の奥に流し込んだ。