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6月ー雨の音と赤点の足音②
「――はい、じゃあテスト返すぞー。今回は全体的に平均点高めだったから、赤点は少なかったな」黒板をパンパンと叩きながら、担任の高橋先生が教壇の上で答案用紙の束を広げる。ついにやってきた、初めての定期テストの返却日。教室内は一瞬にして、悲鳴と歓声、そして机を叩く音がごちゃ混ぜになったお祭り騒ぎへと一変した。「長谷川ー」と名前を呼ばれ、私は心臓をバックバクにさせながら教壇へと向かう。裏返された答案用紙を受け取り、席に戻ってそっとめくってみた。「……う、嘘でしょ……!?」そこに赤ペンでデカデカと書かれていた数字を見て、私の目玉が飛び出そうになった。古文、82点。そして、あの忌々しいプラスとマイナスが並んでいた数学の「式の計算」は、なんと91点。「ちょっと、特攻隊長。あんた何その点数、私の教え方が良すぎたわけ?」チャイムが鳴ると同時に、ハーフアップの髪を揺らした凛が、ガタッと前の席を引いて座った。凛の手に握られた答案を見れば、さすがのオール90点超えだ。だけど、私の点数を見た瞬間、凛は珍しく目を丸くして驚いている。「よっしゃあーーー!! 見たか凛! 私が『やる時はやる』の本気を出したらこんなもんよ!」「はぁ!? あんたあんなに古文呪文って言ってたじゃん! 意味分かんないんだけど!」「ふふん、夜中の12時過ぎまで泥泥になって猛勉強した成果だし! 凛先生、私のことバカって言ったの取り消してよね!」「むかつくー、調子乗んな!」凛は悔しそうに私の頭をぐしゃぐしゃと掻き回す。「痛い痛い! 髪型崩れる!」と言い合いながらも、お互いにバチンとハイタッチをして大爆笑した。体育祭のあと、クラスの女子たちに「あんなに大口叩いたのに意味ない」って言われたあの悔しさ。それが、このハイスコアで一気に吹き飛んだ気がした。周りの席の子たちからも、「長谷川さん、数学90点超え!?」「すごーい!」と声が上がって、私は鼻高々でニカニカと笑う。「あー、頭使ったら一気にお腹すいたわ。ねえ舞、放課後購買寄って帰ろ。今日こそ新作のチョコクロワッサン勝ち取るし」「賛成! 私もご褒美になんか美味いもん食う!」机の上の教科書を雑にスクールバッグに放り込みながら、私はふと、クラスの別のグループの子たちとお弁当の準備を始めている葵の背中が目に入った。「……あ、そういえばさ」「ん? なに?」「いや、あの図書室での喧嘩以来、葵とはあんまり話してないなーって思って」お弁当箱の巾着を引っ張りながら、私は口を開けたままぼんやりと呟いた。4月の頃は何かあるたびに葵を頼っていたけれど、今回は凛にズバズバ怒られながら自力で猛勉強して、こんなに良い点数を取ることができた。葵にノートを見せてもらわなくても、なんとかなるもんだな、なんてことを呑気に考える。「ま、喧嘩なんて放っとけばそのうち治るでしょ」凛は私の視線を追うように葵の背中をチラッと見たけれど、すぐにいつものカラッとした顔で私の肩をパシッと叩いた。「それより舞、次の時間は席替えよ! 落ち込んでる暇なんてないんだから!」「あ、忘れてた!」◇「よっしゃあああーーーっ!!」「ちょっと舞、うるさい! 先生に怒られるでしょ!」昼休みが明けて、クラス全員でガラガラと三角くじを引いた結果、とんでもない奇跡が起きた。なんと、私は凛と窓際の一番後ろで「横並びの隣同士」になったのだ。「やったじゃん凛! これで授業中いつでも喋り放題じゃん!」「バカ、授業中は大人しくしなさい。……ま、ノートの貸し借りとか、内緒話はしやすくなったけどね」凛は呆れ顔をしながらも、嬉しそうにニカッと笑う。机をガタガタと移動させて、さっそく凛と隣同士に並ぶ。今まで前の席だった葵の背中は、もうそこにはない。葵は教卓側の、私からは少し離れた前の方の席に移動していった。物理的にも、私と葵の距離は少し離れてしまったのだ。だけど、今の私にはそんなことを気にしてしんみりしている暇はなかった。新しい席に着いた瞬間から、隣の凛のマシンガントークが炸裂する。「ねえ舞、せっかく隣になったんだからさ、ペンケースお揃いにしない? 私、放課後に駅前のファンシーショップで新しいの買いに行きたいんだけど」「いいねそれ! じゃあ購買のパンを食ったあとにそのまま行こ!」「決まり。あ、あんたが私の真似して変な色にしたら怒るからね」「はぁ!? 私のセンスをナメるな!」本音を隠さず、ズバズバと言い合える凛との時間は、新しくて、すごく楽だ。気を遣うこともないし、何を言っても笑い飛ばせる。席が隣になったことで、うちらの日常のテンポはさらに加速して、仲は一気に深まっていった。◇放課後、激しい雨の音をかき消すような購買の戦場を潜り抜け、うちらは見事にチョコクロワッサンとイチゴオレを勝ち取った。雨が吹き込む渡り廊下のベンチに2人で並んで座り、買いたてのパンにかぶりつく。「んーーー! 染みるわー! 脳みそが糖分を欲してたわ!」「大げさだし。……でも、あんたが数学で90点超えたのは、正直ちょっと見直したかもね」凛がイチゴオレのストローをくわえながら、ふっと不敵に笑う。「だろ!? 凛の教え方がスパルタすぎたおかげだよ。でもさ、次の期末テストはもっと範囲広くなるんでしょ? 今から恐怖なんだけど」「当たり前じゃん。次は方程式が入ってくるから、今のうちにサボったら一発で赤点よ。また私の部屋でしごいてあげるから覚悟しなさい」「ひえー、凛先生マジ容赦ないじゃん! でもよろしく!」パンの粉を制服のスカートから払い落とし、凛からウェットティッシュを奪い取りながら、私たちはまた顔を見合わせてゲラゲラと笑い転げた。思ったことをそのまんま叫べて、ガチで言い合いになっても次の瞬間には笑い合える。凛との新しい放課後は、めちゃくちゃ賑やかで、最高に楽しかった。ザーザーと激しくなる6月の雨が窓を叩く。進み始めた、凛との新しくてサバサバした毎日。席も隣になって、さらに賑やかになった日常の中で、私は次のテストも絶対に負けないぞ、と胸の中で小さく拳を握りしめるのだった。
予約投稿です。もう小説のネタがないというか面白みがないというか、、、ちょっとこのシリーズ諦めようかな、、一応7月編まで考えてるんだけど話がごちゃごちゃして作ってる感がすごい、、
シリーズをどうするかは次回発表します(多分予約投稿で15時かな)