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第四話
日が暮れてきた。 そろそろお兄様がお帰りになる頃かしら。
「五の宮。 光る君をこちらでお育てするのでしょう? たくさんの書物を集めておきましたわ。 どれから学ばせるのが良いかしら ......」
悩ましそうな顔で話しかけてきたのは、お姉さまだ。 先日、裳着を済まされて以前にも増して美しくなられたお姉さまの もとには、毎日恋文の嵐が鳴り止まない。
「ううん、 帝がこれまでどの程度教育なさったのか分かりませんもの。 見当もつきま せんわ」
「そうよね。 …噂によると、 あちらでは普通の姫君が受けるような教養ばかり身につけさせられているそうなの。 和歌に琴、 和琴、琵琶、 それからお香の調合などね」
お姉さまからそんな驚きの事実を聞かされ、 私は呆れて頭が痛くなった。
「はあ。 流石に度が過ぎているわ......」
あまりの呆れ具合に、 いつもなら次々に出てくる小言が、この時ばかりはほとんど喉に詰まって出てこなかった。
「宮様、 宮様! 兵部卿の宮様が、 光る君を連れて牛車でお帰りになりましたわ! お二人が並ぶと、 それこそ輝かんばかりの美 しさでございますよ!」
命婦が息を切らせて知らせてくれた。私とお姉さまは御簾の隙間からそっと外を覗いてみた。......そこにいたのは、本当に言 葉を失うほど美しい少年だった。 お兄様と並んで見劣りしない男など、きっとこの世で光る君をおいて他にはいないわ。
「愛しい姫宮たち、 今帰ったよ。 こちらが光る君だ」
お兄様に促され、 小さな影が一歩前に出た。
「............お初にお目にかかります。 二の宮でございます。 これから、よろしくお願いいたします・・・・・・」
光る君の声は、かすかに震えていた。 緊張しているのか、あるいは怯えているのだろうか。 無理もないわ。 何せ私は、彼の父親 である帝に堂々と説教の文を叩きつけた、唯一の女なのだから。
「光る君。 そんなに怯えなくてもよろしいのですよ」
彼の不安をいち早く察して、 すぐに優しい声をかけたのはお姉さまだった。
「そうですわ。 私たちはあなたを救うために、当然なすべきことをしただけですもの」
お姉さまに続いて、私もそう言葉を重ねた。 すると、 光る君はその秀麗な顔を困惑に歪ませて問いかけてきた。
「私を......... 救う? 私は、 何かから苦しめられていたのですか?」
――まさかこの子は、父帝のなされていたことがすべて正しいと教え込まれてきたのかしら。 やはりあの帝は、この上ない愚 帝だわ。
「あなたはまだご存じなかったのかもしれないけれど、 あなたの父帝は、あなたに対して大きな罪を犯しておられたのですわ よ。 ・・・・・・でも、もう安心なさい。 あなたはこれから我が家で、たくさんのことを学ぶことになるわ。 本当のきょうだいのように 思って、 何でも頼ってくださると嬉しいわ」
私は、 自分にできる最大限に優しい微笑みを彼に向けた。 この子にもいつか、民のために必死になれる立派な人になってもら わなければ困るもの。 都一の教育を施して、 都一の天才に育て上げてみせるわ!
「・・・・・・ありがとうございます」
光る君の、最初は緊張で強張っていた顔が少しずつ綻び、 小さな笑顔がこぼれた。 その姿は、息をのむほどに美しかった。
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