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第六話
光る君を教育し始めて、 早くも半年が経った。
光る君は、ようやく数年分の遅れを取り戻し、 普通の九歳が持つべき知識をすべて手に入 れた。 あの愚帝が施していなかった教育の穴があまりに多すぎたため、今日までは本当に大変な道のりだった。 しかし、勝負はここからだ。 何せ私の目標は、 光る君を都一の天才に育て上げることなのだから。
「五の宮。 この恋文の山、 どう片付けるべきかしら。 燃やすにしても、 灰の始末だけで大変なことになってしまうじゃない?」
お姉さまが困り果てた顔で相談をもちかけてきた。 お姉さまの美しさは誰もが認める事実だけれど、これほど評判が立ってしまえば、 絶 え間なく押し寄せる男たちへの対応で苦労が絶えない。
さて、あの大量の文をどう処分するのが最も効率的かしら......
紙はよく燃える。 そういえば最近、 薪が手に入らなくて炊事の燃料に困っている民たちがいたわね。 あの者たちの燃料として活用させれば・・・・
「五の宮? ずいぶんと小さな声でぶつぶつ言っているから聞こえないけれど、色々と考えてくれているのね?」
「えっ!? あ、思考が口から漏れてしまっていたなんて・・・・・・。 今、 思いついたのです。 薪を買えずに燃料に困っている民たちへ、 この文 を配るというのはいかがでしょうか。 紙ならよく燃えますでしょう?」
お姉さまは、およそ高貴な姫君からは出てこないであろう私の突飛な提案に、驚きを隠せない様子で目を丸くした。
「・・・・・・素晴らしいわ、 五の宮。 ただの塵にしてしまうより、お米を炊くための炎となり、 誰かのお腹を満たしてから塵になったほうが、 文 を贈った者たちにとっても遥かに本望というものね」
お姉さまがすぐに深く賛同してくれたので、 私はほっと胸をなでおろし、 心の中で小さくため息をついた。
「五の宮・・・・・・ 頼みがあるのだが・・・・・・」
「お兄様!? まあ、一体どうされたのですか、 そんなにおやつれになって・・・・・・!」
私はお兄様の顔を見て驚愕した。 いつもの美貌が台無しになるほどげっそりとやつれ、全身から疲労が滲み出ている。
「聞いてくれるかい? 内裏を歩けば男たちが 『妹君に渡してくれ!』 と恋文を押しつけてくるし、女房たちの局の前を通りかかれば、 寄 ってたかって私の衣を引っ張って中に引きずり込もうとしては、 これまた恋文を渡してくるのだ・・・・・・」
まあ、なんという酷い話かしら。 いくらお兄様の顔立ちが良く、お姉さまが美しいからといって、宮中の者たちは少しは羞恥心を持ちなさ い! 私は心の中で怒りの炎を燃やし、 どうにか感情を鎮めようと深呼吸した。
「まあまあ、 お兄様。 ・・・・・・ですが、 お兄様がそろそろ北の方をお迎えになれば、そうした騒ぎも収まるのではないかしら」
お姉さまの言葉は、 まさに正論だった。 確かに、 可愛い妹たちが二人もいるからと、これまですべての縁談を蹴って独り身を貫いてきた お兄様側にも、少しは原因があるかもしれない。
「無理だ・・・・・・。 女子という生き物は、つくづく恐ろしい・・・・・・」
お兄様の目は完全に濁っている。 あーあ、 すっかり重度の女性不信に陥ってしまっているわ。
「「ではお兄様! 私たちが心優しい姫君を探してきて差し上げますわ!」」
お姉さまと口裏を合わせたわけではないのに、 見事なまでに声が揃った。 お兄様を怖がらせる女ばかりではなく、中にはきっと、奥ゆかし く優しい人だっているはずだ。
「ありがとう、我が宮たち。 しかし、そんな都合の良い姫君がいるものかね。 我が家の北の方となれば、大臣の姫君か、さもなくば内親王 や女王といった高貴な身分でなくては釣り合わないが・・・・・・」
「う......。では、我が家の女房たちに広く噂を探らせますわ。それか、光る君なら何か知っているかもしれません。 内裏には、数多の 女御や更衣がいたのでしょう? あの帝が、 光る君を無理やり女たちの御簾の中に引き入れていたという噂ですし・・・・・・」
ここへきてもなお、あの愚帝の仕業が関わってくるとは、本当に不愉快極まりないわね。 結局、 何が起きてもあ奴の悪影響が絡んでくる のが本当に許せない。
読んでくれてありがと!