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声をなくした少年⑧
莉犬と出会ってから半年。
瑛斗の人生は大きく変わり始めていた。
配信にはたくさんのリスナーが来るようになった。
歌を投稿すれば感想が届く。
「元気をもらった」
「泣いた」
「明日も頑張れそう」
そんな言葉が増えていった。
それでも瑛斗は、自分に自信が持てなかった。
配信を切った後。
鏡を見る。
すると昔の自分がいる気がした。
教室で一人だった少年。
泣いてばかりいた少年。
「本当に僕が人を救えるのかな」
何度も思った。
そんなある日。
莉犬から連絡が来た。
『今度イベントあるんだけど出てみない?』
瑛斗はスマホを二度見した。
『え?』
『歌ってほしい』
心臓が止まりそうになった。
人前で歌う。
ステージに立つ。
それは夢だった。
でも同時に一番怖いことだった。
『無理です』
瑛斗は反射的に送った。
するとすぐ返信が来た。
『本当に?』
『みんな瑛斗くんの歌待ってると思うけどな』
瑛斗は言葉を失った。
その日の夜。
眠れなかった。
逃げたい。
でも挑戦したい。
朝になる頃。
瑛斗は一通だけメッセージを送った。
『やります』
送信ボタンを押した瞬間、手が震えた。
そして迎えた当日。
会場には大勢の人がいた。
ペンライトが光っている。
歓声が響いている。
楽屋で瑛斗は青ざめていた。
「無理だ……」
足が震える。
手も震える。
呼吸も苦しい。
その時だった。
トントン。
ドアが開いた。
莉犬だった。
「緊張してる?」
瑛斗は苦笑いした。
「めちゃくちゃです」
すると莉犬は笑った。
「俺もだよ」
「え?」
「今でも毎回緊張する」
瑛斗は驚いた。
何万人もの前で歌う人でも。
怖いんだ。
莉犬は続けた。
「でもさ」
「失敗してもいいじゃん」
瑛斗は顔を上げた。
「大事なのは上手く歌うことじゃなくて、届けることだから」
その言葉が胸に残った。
やがてスタッフが呼びに来た。
「瑛斗さん、本番です」
ついにその時が来た。
ステージへ向かう。
眩しい光。
大きな歓声。
足が震える。
だけど。
客席を見た瞬間。
一人の女の子が見えた。
うちわを持っていた。
そこにはこう書かれていた。
『瑛斗くんの歌に救われました』
瑛斗の目が潤む。
また別の人がいた。
『生きようと思えた』
もう駄目だった。
涙がこぼれた。
昔。
自分も同じだった。
誰かの言葉が欲しかった。
誰かに助けてほしかった。
そして今。
目の前には。
自分の歌で救われた人たちがいる。
瑛斗はマイクを握りしめた。
「今日は来てくれてありがとう」
声が震える。
「僕は昔、自分のことが大嫌いでした」
会場が静かになる。
「消えたいと思った日もありました」
涙が流れる。
「でも」
客席を見る。
「生きていてよかったです」
大きな拍手が起こる。
そして瑛斗は歌い始めた。
心を込めて。
魂を込めて。
泣いた夜も。
苦しかった日々も。
全部乗せて。
歌う。
歌う。
歌う。
曲が終わった時。
会場中が涙に包まれていた。
莉犬も袖から見ていた。
そして小さく笑った。
「本当に強くなったね」
その夜。
ステージを降りた瑛斗は空を見上げた。
昔。
真っ暗に見えた夜空。
今は違う。
たくさんの光があった。
まるで応援してくれる人たちみたいに。
その時、瑛斗はまだ知らなかった。
このライブ映像がネットで大きな話題になり、
彼の人生をさらに変える出来事が始まることを——。
第八章 〜瑛斗と莉犬の過去〜 続く。