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声をなくした少年④
高校一年生の春。
瑛人は周りから見れば普通の高校生だった。
学校へ行き。
授業を受け。
家へ帰る。
そして夜になると歌う。
だけど、本当は全然普通じゃなかった。
心の中には、ずっと抱え続けている苦しみがあった。
鏡を見るたびに思う。
「違う」
制服姿を見る。
「違う」
友達と話していても。
笑っていても。
心のどこかで苦しかった。
まるで、自分が自分じゃないような感覚。
その違和感は年々大きくなっていた。
ある日の夜。
瑛人は部屋で一人泣いていた。
理由なんて分からない。
でも苦しい。
息ができないほど苦しい。
スマホが光る。
莉犬の配信通知だった。
瑛人は開いた。
いつもの明るい配信。
みんな笑っている。
コメントも流れている。
でもその日、莉犬はふと真面目な顔になった。
「みんなさ」
静かな声だった。
「誰にも言えない悩みってある?」
コメント欄が一気に流れる。
『ある』
『言えない』
『怖い』
莉犬は小さく頷いた。
「だよね」
そして少しだけ笑った。
「俺もそうだったよ」
瑛人は息を呑んだ。
「自分のことを話したら嫌われると思ってた」
「受け入れてもらえないと思ってた」
「だからずっと隠してた」
瑛人の胸が苦しくなる。
まるで自分のことを言われているみたいだった。
「でもね」
莉犬は続ける。
「本当の自分を否定し続ける方が、もっと辛かった」
その瞬間。
瑛人の中で何かが崩れた。
配信が終わったあと。
部屋は静かだった。
でも心は嵐みたいだった。
「もう限界だ……」
何年も隠してきた。
何年も苦しんできた。
何年も一人で抱えてきた。
その夜。
瑛人はリビングへ向かった。
父と母がテレビを見ていた。
「話がある」
二人が振り返る。
心臓が壊れそうだった。
手が震える。
足も震える。
逃げ出したかった。
でも逃げなかった。
「僕……」
声が詰まる。
涙が出る。
「ずっと苦しかった」
母の顔が変わる。
「僕、本当の自分を隠して生きてきた」
涙が落ちる。
止まらない。
「嫌われるのが怖かった」
父は黙って聞いていた。
「でももう無理なんだ」
瑛人は泣きながら全部話した。
何年も抱えてきたこと。
孤独だったこと。
苦しかったこと。
消えたかった夜があったこと。
全部。
全部話した。
長い沈黙だった。
瑛人は俯いた。
怖かった。
否定されると思った。
怒られると思った。
すると。
母が抱きしめた。
「ごめんね」
震えた声だった。
「一人で抱えさせてごめんね」
瑛人の涙があふれる。
「辛かったよね」
母も泣いていた。
父も静かに言った。
「話してくれてありがとう」
その言葉を聞いた瞬間。
何年も背負ってきた重たい荷物が少し軽くなった気がした。
初めてだった。
本当の自分を話して。
受け止めてもらえたのは。
その夜。
部屋へ戻った瑛人は空を見上げた。
涙はまだ止まらなかった。
でも不思議だった。
悲しい涙じゃない。
救われた涙だった。
スマホを見る。
莉犬の配信アーカイブが残っている。
瑛人は小さく呟いた。
「ありがとう」
その言葉は届かないかもしれない。
でも確かに、あの日の配信が瑛人の人生を変えた。
そして数か月後。
瑛人は初めて大勢の前で歌うことになる。
しかしそのステージで、予想もしない出来事が待っていた——。