公開中
声をなくした少年⑩
兄弟だった。
その事実を知った日から、瑛斗の世界はまた変わった。
ずっと一人だと思っていた。
でも違った。
会えなかっただけで。
ずっと兄がいた。
それから二人はよく会うようになった。
一緒にご飯を食べたり。
配信について話したり。
たわいもないことで笑ったり。
瑛斗にとっては全部新鮮だった。
ある日。
二人は夜の公園を歩いていた。
人はいない。
静かな夜だった。
「なぁ、兄ちゃん」
瑛斗が言った。
「ん?」
「なんで俺を探してくれたの?」
莉犬は少しだけ驚いた顔をした。
そして笑った。
「弟だから」
あまりにも当たり前みたいに言う。
「離れ離れになっても家族じゃん」
瑛斗の目が潤む。
「いつか会える気がしてたんだよね」
莉犬は空を見上げた。
「だから諦めなかった」
その言葉が胸に染みた。
瑛斗は泣きそうになる。
昔の自分なら信じられなかった。
学校で一人だった日。
消えたいと思った夜。
布団の中で泣いていた時間。
あの頃の自分に言ってあげたい。
「大丈夫だよ」
「未来には兄ちゃんがいるよ」
そう。
全部終わりじゃなかった。
物語は続いていた。
数か月後。
兄弟で初めての合同配信が決まった。
配信開始。
画面に二人が映る。
コメント欄は大騒ぎだった。
『兄弟かわいい!』
『泣いてる』
『本当に運命じゃん』
瑛斗は笑った。
昔なら考えられなかった。
人前で笑うことすら苦手だった自分が。
今はこんなにも幸せだった。
配信の最後。
莉犬が言った。
「最後に瑛斗、何か言う?」
突然振られて焦る。
でも瑛斗は少し考えてからマイクを握った。
「昔の僕は、自分なんて必要ないと思っていました」
コメント欄が静かになる。
「でも今は違います」
瑛斗は隣を見る。
莉犬が笑っていた。
「生きていたから出会えました」
「生きていたから夢を見つけました」
「生きていたから兄ちゃんにも会えました」
涙が溢れそうになる。
「だから今苦しい人にも伝えたいです」
深呼吸する。
「どうか諦めないでください」
「未来は、本当に変わります」
配信画面の向こうでは、たくさんの人が涙を流していた。
そして配信終了後。
莉犬がボソッと言った。
「かっこよくなったな、瑛斗」
「やめてよ兄ちゃん」
「本当のことだし」
二人は顔を見合わせて笑った。
窓の外には満天の星空が広がっていた。
あの頃。
真っ暗だと思っていた空。
でも本当は違った。
ずっとそこに光はあった。
見えなかっただけだった。
そして瑛斗は思う。
苦しかった過去も。
流した涙も。
消えたいと思った夜も。
全部。
今日という幸せに繋がっていたんだ、と。
読んでくれてありがとう