公開中
声をなくした少年⑨
ライブが終わって数日後。
瑛斗は事務所の会議室に呼ばれていた。
そこには莉犬がいた。
でも、いつもと様子が違った。
どこか緊張している。
何かを決意したような顔だった。
「瑛斗くん」
莉犬が静かに言った。
「大事な話があるんだ」
瑛斗は首を傾げた。
「どうしたの?」
莉犬はしばらく黙っていた。
そして震える声で言った。
「実は俺たち……初めて会ったわけじゃないんだ」
瑛斗は意味が分からなかった。
「え……?」
莉犬はポケットから一枚の写真を取り出した。
古びた写真だった。
端が少し折れている。
そこには幼い子どもが二人写っていた。
一人は赤い服を着た男の子。
もう一人は少し小さな男の子。
瑛斗は息を呑んだ。
その小さい男の子は。
自分だった。
「な、なんで……」
指先が震える。
莉犬の目にも涙が浮かんでいた。
「俺たち……兄弟なんだ」
その瞬間。
世界の音が消えた。
兄弟。
その言葉が頭の中で何度も響く。
「うそ……」
瑛斗は立ち上がった。
「そんなはずない!」
莉犬は泣いていた。
「ごめん」
「本当にごめん」
震える声だった。
「俺も最近知ったんだ」
会議室は静まり返っていた。
昔。
家庭の事情で二人は離れ離れになっていた。
幼すぎてお互いの記憶も曖昧だった。
瑛斗は小さかった。
覚えていなかった。
でも莉犬は違った。
ぼんやりと。
弟がいた記憶だけが残っていた。
そして最近になって。
偶然。
昔の資料や写真が見つかった。
そこで真実を知った。
「あの日からずっと探してた」
莉犬は涙を流した。
「でも見つからなくて」
「まさか瑛斗くんだったなんて思わなかった」
瑛斗の視界が滲んでいく。
昔から感じていた不思議な安心感。
初めて会ったのに初めてじゃないような感覚。
全部。
全部つながった。
「兄ちゃん……」
気付けばそう呼んでいた。
莉犬の肩が震える。
「うん」
「兄ちゃんだよ」
その言葉を聞いた瞬間。
瑛斗は泣きながら抱きついた。
何年も。
何年も。
一人だと思っていた。
苦しい時も。
泣いていた時も。
本当は。
ずっと兄がいた。
会えなかっただけで。
莉犬も瑛斗を強く抱きしめた。
「生きててくれてよかった……」
その言葉に瑛斗は大声で泣いた。
今までの孤独。
悲しみ。
苦しみ。
全部が涙になって溢れた。
窓の外では夕日が沈み始めていた。
まるで運命が。
離れた兄弟を再び結びつけたことを祝福しているようだった。
そして二人は約束した。
これからは一人じゃない。
兄弟として。
仲間として。
たくさんの人に希望を届けていこう、と。
その日。
瑛斗は人生で初めて心から思った。
「あの苦しい過去にも意味があったんだ。」