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声をなくした少年⑤
家族に本当の気持ちを話した日から、瑛斗は少しずつ前を向けるようになった。
苦しみが消えたわけじゃない。
不安もある。
怖さもある。
でも、一人じゃなかった。
それだけで世界は少し違って見えた。
ある夜。
瑛斗は自分の机に座っていた。
目の前にはスマホ。
画面には配信アプリの画面が映っている。
指が震えていた。
「本当にやるのか……?」
何度も自分に聞いた。
もし誰も来なかったら。
もし笑われたら。
もし悪口を言われたら。
考え始めると止まらない。
しかし、その時だった。
机に置かれたノートが目に入る。
昔書いた夢。
『いつか僕も、人を救える歌を歌いたい』
瑛斗は深呼吸した。
そして。
配信開始ボタンを押した。
ピコン。
配信が始まる。
視聴者数。
0人。
胸が痛くなった。
「やっぱり無理かな……」
そう思った時。
数字が変わった。
1人。
瑛斗は目を見開く。
誰かが来てくれた。
たった一人。
でも嬉しかった。
「こ、こんばんは……」
緊張で声が震える。
コメントが流れる。
がんばれー
その一言だけで泣きそうになった。
しばらくして視聴者は3人になった。
5人になった。
10人になった。
決して多くはない。
でも瑛斗には奇跡だった。
「今日は歌います」
そう言って歌い始めた。
最初は震えていた声。
だけど途中から変わった。
苦しかった日々。
泣いた夜。
孤独だった時間。
救われた瞬間。
全部を歌に乗せる。
歌い終わる。
静寂。
瑛斗は下を向いた。
怖かった。
すると。
コメントが流れ始めた。
泣いた
声好き
気持ちが伝わった
また聴きたい
瑛斗の視界が滲む。
「ありがとう……」
声が震えた。
配信が終わった後も眠れなかった。
何度もコメントを読み返した。
その中に、一つだけ忘れられない言葉があった。
今日、消えたいと思ってた。
でもあなたの歌を聴いて、もう少し頑張ろうと思えました。
瑛斗は涙を流した。
昔の自分を思い出した。
暗い部屋。
泣いていた夜。
莉犬の配信。
救われた言葉。
そして今。
誰かが自分の歌で救われている。
「僕も誰かを助けられたんだ……」
その夜。
瑛斗は空を見上げながら小さく笑った。
「莉犬くん」
届かないかもしれない。
でも心の中で言った。
「あなたが救ってくれた命が、今度は誰かを救えました」
涙が頬を伝う。
だけどそれは、昔みたいな絶望の涙じゃなかった。
夢へ向かって歩き始めた人の涙だった。
しかし瑛斗はまだ知らない。
この小さな配信がきっかけで、ある日突然、多くの人に知られることになる。
そして――
憧れ続けた莉犬との運命的な出会いが待っていることを。
第六章 〜届いた一通のメッセージ〜 続く。