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声をなくした少年①
雨の日だった。
小学四年生の瑛人は、教室の窓から外を見ていた。
楽しそうに話しているクラスメイトたち。
笑い声。
友達同士の会話。
でも、その輪の中に瑛人はいなかった。
「ねぇ、なんであいついつも一人なの?」
後ろから聞こえた声に、瑛人の肩が震えた。
聞こえないふりをした。
慣れていたからだ。
小さい頃から周りと少し違うだけで、いろんなことを言われてきた。
自分でも説明できない苦しさを抱えていた。
でも誰かに話したところで、分かってもらえない。
そう思っていた。
家に帰ると、ランドセルを投げるように置いた。
母が心配そうに聞く。
「学校どうだった?」
瑛人は笑った。
「楽しかったよ」
嘘だった。
本当は全然楽しくなかった。
でも心配をかけたくなかった。
母が振り返った瞬間、瑛人は下を向いた。
目に涙が浮かんでいた。
夜になると、布団の中で天井を見つめる。
静かな部屋。
時計の音だけが響いている。
その時だけは、本当の自分と向き合わなければならなかった。
「なんで僕なんだろう」
誰に言うでもなくつぶやく。
答えは返ってこない。
そのまま泣きながら眠る日が増えていった。
中学に入った。
「ここなら変われるかもしれない」
そう思っていた。
でも現実は違った。
最初は普通だった。
けれど少しずつ噂が広がった。
悪口。
陰口。
からかい。
そして無視。
教室に入るだけで胃が痛くなった。
朝になると吐き気がする。
学校へ向かう足が動かない。
それでも頑張って通った。
「弱いと思われたくない」
その一心だった。
ある日の昼休み。
机の中に紙が入っていた。
開くと大きな文字で書かれていた。
「消えろ」
瑛人の手が震えた。
周りを見る。
何人かが笑っていた。
犯人は分からない。
でも誰がやったかなんて関係なかった。
その瞬間、自分が本当に嫌われていることだけが伝わってきた。
家に帰ると、部屋の鍵を閉めた。
バッグを床に落とした。
そして初めて声をあげて泣いた。
「もう嫌だよ……」
涙が止まらない。
呼吸も苦しい。
胸が痛い。
世界中で一人ぼっちになった気がした。
その夜だった。
眠れずにスマホを見ていた時。
おすすめ動画に一つの配信が流れてきた。
歌だった。
顔も知らない誰かが歌っていた。
だけどその歌声は不思議だった。
優しくて。
温かくて。
まるで自分の傷を知っているみたいだった。
陽斗は画面を見つめた。
そして配信者が最後に言った。
「今つらい人へ。
今日を生きただけでも偉いよ。」
その瞬間。
瑛人の涙があふれた。
誰も言ってくれなかった言葉だった。
ずっと欲しかった言葉だった。
画面の向こうの知らない人が、初めて自分を認めてくれた気がした。
次の日も学校はつらかった。
でも昨日とは少し違った。
家に帰ればあの歌がある。
そう思えた。
少なくとも完全な一人じゃなかった。
いつしか瑛人は歌うようになった。
誰もいない部屋で。
小さな声で。
苦しさを吐き出すように。
泣きながら歌う日もあった。
声が枯れるまで歌う日もあった。
すると不思議なことに、少しだけ心が軽くなった。
歌だけが、唯一の居場所になった。
しかし瑛人はまだ知らなかった。
数年後。
その歌が。
自分自身を救うだけではなく。
何万人もの人の涙を止めることになるなんて。
そして彼が、人生を変える大きな決断をする日が来る
読んでくれてありがとう