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マレエーSS集No.26〜50
【No.26】雪と暖炉
エースは薪を大きくくべた。暖炉の火が勢いを増し、パチパチと音を立てる。先程よりも少しだけ、室内が暖かくなった気がした。
「雪はまだ止みそうにないな」
──先輩が降らせてるくせに。
エースを帰したくない魂胆が見え見えである。けれど、あえてエースは乗った。
「まぁね。でも先輩の部屋ってあったかいし、大丈夫でしょ」
知らないフリをしたエースも共犯だ。
共犯者同士、くすくすと笑い合う。
「近くに寄っても良いか?」
「なんで?」
「暖を取りたい」
「しょうがないなあ」
エースは遠慮なくマレウスに身を寄せる。マレウスはエースの肩をそっと抱く。
二人の体温が、静かに合わさっていく。
「紅茶も淹れたげよっか?」
「あとでな」
暖炉の火が、二人の姿をやさしく照らしていた。
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【No.27】お気に入りの肖像画
マレウスの部屋に遊びに来たエースの目に、真っ先に飛び込んできた肖像画。
「なにあれ」
「自分の顔がわからないとは……」
本気で心配そうにしているマレウスには悪いが、本気で脳が理解を拒んだのだ。
いつ描いたのか、誰に描かせたのか、いつから飾っていたのか、そもそもこの画を描くための見本はどうやって手に入れたのか、聞きたいことは山ほどある。あり過ぎて、どこから聞けばいいのかわからない。
だからエースは、目撃してすぐに思いついた疑問を大声でぶつける。
「なんでオレの顔が飾ってあるんだああああ!?」
しかもマレウスにしか見せないような、甘い笑顔の。
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【No.28】きらきら星
空の上は、プラネタリウムよりもダイナミックで、宝石のように輝いていた。
「すげえ……」
マレウスの腕の中にいるエースは、幼子のように単純な感想しか言えないようだ。
星空に夢中になっているエースの瞳を、マレウスは覗き込む。
星々に負けず劣らず、キラキラと輝いていた。
「お前と見る星空は、すべてが輝いて見える」
「大げさだな」
エースは照れ隠しのように笑う。その笑顔を直視したマレウスの心にも、一つのあわい輝きを灯した。
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【No.29】借りてきた猫のようだった
外泊届を出した瞬間から、覚悟はしていた。
夜。エースはガチガチに緊張した表情で、マレウスのベッドに腰かけた。
まるで借りてきた猫のようなエースの肩を、マレウスは抱く。
「トラッポラ、そんなに固くなるな。夜をともに過ごすだけだ」
「でも、でもさ、マレウス先輩の部屋に、しかもベッドに座るなんて、普通に緊張するでしょ」
「……ならば、床に座るか?」
マレウスなりの冗談だったが、エースはそう取らなかった。
正常な判断を失ったエースはマレウスから離れる。ベッドに腰かけたままのマレウスの足元の床に、素直に座った。
長い足に抱きつくように、ぺたりともたれかかる。
マレウスは驚く。マレウスの足におとなしく懐くエースの姿を凝視する。
「……いい」
「新しい扉開こうとすんな!」
不穏なつぶやきを聞いたエースは正気にもどり、あわててマレウスの足からも離れた。
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【No.30】添い寝
広いベッドの中で、二人はシーツに沈んだ。
エースは甘えるように、自身をマレウスに寄せる。マレウスもゆっくりとエースの背中に腕を回す。
「マレウス先輩、あったかい。いつもは冷たいのに」
「風呂上がりだからだ。お前も温かい」
エースは「ふふ」と小さく笑った。続けて言う。
「マレウス先輩といっしょにいると、なんか安心する」
「僕もトラッポラといると、心が安らぐ」
しばしの静寂。二人は目をつむり、互いの温もりを感じながら、少しずつ深くなっていく夜を共有する。
マレウスの胸元で、エースはつぶやく。
「オレ、眠くなってきたかも」
「このまま夢の中に行こう」
「うん」
おやすみ、とあいさつを交わして、二人は意識を沈めていく。おだやかな寝息を先に立てたのはどちらなのか、誰も知らない。
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【No.31】鼻が効く二匹の獣
レオナはグリムをめんどうそうに見る。
「エースにつがいができただあ?」
「間違いないんだゾ。爬虫類っぽい匂いがプンプンするんだゾ。でも人間のつがいは人間なはずのに、爬虫類だなんておかしいんだゾ?」
レオナは「はっ」と鼻で笑った。
「心当たりがあるぜ。それをリリアに言ってみな。おもしろいもんが見れるぜ」
「見るよりツナ缶が食べたいんだゾ」
「口止めにもらえるかもなあ?」
「もらえるのか!? リリアのとこに行ってくるんだゾー!」
一時間後。ツナ缶を大量に持って、オンボロ寮に帰っていくグリムの姿があったそうな。
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【No.32】僕の心の闇
マレウスはエースを抱きしめる。
「少しだけ、このままでいさせてくれ」
いつになく弱い言葉だった。
突然のことにエースはとまどう。背中に回された腕の震えを感じて、何も言えない。
マレウスは言葉をつむいでいく。
「いまのお前は、まるで光のようだ。僕の心の闇を、少しだけ照らしてくれる」
「闇、ね……」
聞いているこちらが小っ恥ずかしくなる言葉だった。しかしマレウスが言うと、やけに似合う。
こわばっていたマレウスの腕が、徐々にゆるんでいく。エースの温かさに安らぎを得ているようだが、それにエースは気づかない。
「礼を言おう、トラッポラ」
「そこは『ありがとう』って言ってくださいよ」
「ありがとう」
素直な言葉に、今度こそエースは照れた。
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【No.33】花嫁は買収済みです
「アズール先輩! 助けてください!」
「ご結婚おめでとうございます」
「一瞬で見捨てられた!?」
即答した理由はある。アズールはすでにマレウスに買収されているからだ。
アズールは嬉々として契約書を取り出す。
「結婚は契約そのもの。まずはこちらに目を通してください」
「マジかよ……」
エースはがっくりとうなだれた。
これがもし同意のないものであれば、さすがのアズールも、買収を断っていた。ビジネスは金持ちのためにあるものではない。金の無い者を一方的に足蹴にしてはならない。
エースからの婚姻の同意もあったからこそ、アズールは心置きなく契約書を用意できたのだ。
「そもそもあなたも、付き合うときにマレウスさんに言われていたでしょう。結婚前提だと」
エースはもごもごと言い訳をする。
「あんなの、告白を盛り上げるための演出だと思うじゃん」
「僕まで立ち合わせておいて、よくも演出だとほざけましたね。僕もひまではないんですよ?」
「弱みをにぎるために居たと思うじゃん!」
「何はともあれ、ドラコニア家の花嫁になる道からは逃れられませんよ」
「オレが嫁かよ!?」
改めてアズールは契約書をエースに突きつける。
「さあ、サインを!」
婚姻をより強力なものにするための、契約書を。
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【No.34】謎解きゲーム
主人公が石壁を手で撫でたり、叩いたりして、仕掛けを探している。すると石壁の模様が画面にアップで映った。色が濃いだけだと思われた模様は、よく見たらへこんでいた。
コントローラーを操っていたエースは一人納得する。
「ははん。なるほど。ここにアイテムをはめれば、どっかの扉が開くってわけね」
エースの隣でゲーム画面を眺めていたマレウスが問いかける。
「なぜアイテムとやらを穴にはめるだけで扉が開くとわかる?」
「そういうセオリーなの」
「なんて都合のいい世界だ」
たかがゲームにいちいち突っ込むマレウスを、エースは嫌がらない。
あれでもゲームを楽しんでいるのだと、エースにはお見通しなのだ。
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【No.35】エースの予想は三度外れる
あらすじでは、もっとマイルドなものだと思っていた。だがその予想は外れていた。
そのレンタルDVDは、ふたを開けてみればグロテスクなものだった。
モンスターに襲われて逃げまどう人族たち。なすすべなく食われていく。作りものだと理解しても、忌避感はどうしても出てくる。
「うーわ。けっこうグロい。見るのやめますか?」
そう提案しながら、エースは同じソファで隣に座っているマレウスを見る。
マレウスも同じく引いているとエースは思っていた。だがまたもやその予想は外れた。
目を輝かせながらグロテスクなシーンに魅入っているマレウスがいたのだ。
──もしかしてマレウス先輩って、こういう趣味もってんの?
もしその趣味を、こちらに向けられる日が来てしまったら……。
勝手に予想して、恐怖で震えるエースに気づかないまま、マレウスはモンスターに見とれ続けている。
ガーゴイルを忠実に再現した、美しいモンスターだけに。
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【No.36】ツノを触りたかっただけ
エースは手をあげて、マレウスのツノに触れる。率直な感想をマレウスに伝える。
「冷たいような、温かいような、不思議な感じ」
マレウスはエースの瞳を、上目遣いで覗き込む。
「特に変わり映えのない瞳の色だが、不思議と惹き込まれる」
「オレのことはどうでもいいじゃないですか!」
エースはあわててマレウスから離れた。
いまさら照れているエースの様子を、マレウスは疑問に思う。
ツノを触るためだけに、マレウスに屈むように頼んだあげく、屈んだマレウスの頭部に腕を回したくせに、なにをいまさら照れているのか。
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【No.37】愛らしいピエロだった
魔法で温度管理されているバスタブの中は、熱すぎず、ぬるすぎず、ちょうど良い。
居心地も良くて、エースは深く息をはいた。
背もたれに使われているマレウスは、片腕でエースをゆるく抱きしめる。もう片方の腕を水面からあげて、指先に泡を一つ生み出す。その泡を、エースの鼻頭にちょんと付けた。
「うわ。なに?」
振り返ったエースの顔を見て、マレウスはくつくつと笑う。
「なんて愛らしいピエロだ」
すぐにエースは自分の指で、鼻頭の泡を割った。
「ピエロはお客様といっしょにお風呂なんて入りませーん」
「そうだったな。僕の恋人」
マレウスは悪びれずに訂正した。
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【No.38】うすい湯気の中
「こうして二人きりで風呂に浸かってんのって……なんか、いいね」
「どう『いい』と感じたか教えろ」
「ホッとするっていうか、落ち着くっていうか」
「そうだな。静かで、おだやかで、まるで僕たちしかいない世界のようだ」
「うん……」
二人のあいだに沈黙が流れる。気まずさはまったく無い、二人だけの時間。うすい湯気に包まれた、暖かくてせまくて、やさしい世界。
その世界の平和は、エースがのぼせるまで保たれた。
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【No.39】寿命による悩み
「オレと別れてください」
マレウスは動揺しない。うつむいているエースのあごをすくい取る。涙の跡が残っている恋人の顔を見つめながら、冷静な声色で問いかける。
「ずいぶんと一方的だな。理由を聞かせろ」
エースは言いにくそうに、けれど意を決して口を開く。
「だってマレウス先輩ってめちゃくちゃ長生きするんでしょ? オレはたったの百年しか生きられないのに。オレが死んだら、いつかオレのこと、忘れちゃうんだ。そんなの耐えらんねえよ」
予想通りの理由だった。
マレウスは吐き捨てるように言う。
「くだらない」
「『くだらない』だと!? オレは本気でイヤなんだよ!!」
「話を聞け」
なだめるために、エースの頬をなでるマレウス。エースはまた泣きそうになっている。
マレウスは続けて言う。
「トラッポラを忘れるなどありえない。お前が僕にくれた想いは、永遠に僕の中で輝き続ける」
マレウスはエースを腕の中に入れた。頭を撫でて、つむじにキスを贈る。
「僕の想いを疑うな。そんな悩み、最初から意味がない」
「先輩……!」
「そもそもお前の寿命は、すでに僕と同じになっている」
「先輩……!?」
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【No.40】ああ、困った
レオナはひどく顔をしかめる。
目の前にいるのは、エースに抱きつかれているマレウスの姿。
「なんだそれ」
問いかけられたマレウスは答える。
「どうやら惚れ薬をかぶってしまったようだ。まったく。この問題児には困ったものだ」
笑顔のエースを片腕で抱き寄せながら、同じくマレウスもニコニコと笑っている。
彼らに向かって、レオナは「言葉と表情がまったく合ってねえ」と吐き捨てた。
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【No.41】記憶喪失
一年生と三年生の合同授業中に、魔法薬をかぶったマレウスが記憶喪失になった。調合に失敗した監督生をかばったせいだった。
すべてを忘れたわけではない。約一年前から現在までの期間を丸ごと忘れただけである。今期の一年生を丸ごと忘れてしまったとも言えるのだが。
「それでもツノ太郎とは、また友達でいられたよ」
そう言った監督生を、エースは心底うらやましく思った。
数日後。すっかり日常に戻ったマレウスの前に、エースは単身で立ちふさがる。
マレウスにとってはいきなり現れた一年生。マレウスは立ち止まり、確認する。
「お前は……ヒトの子の友人だったな」
「それだけじゃないです。オレは……」
ただの事故として片付けられても、マレウスの記憶喪失は続いたまま。
エースとの仲も忘れたまま。
「オレは、マレウス先輩の恋人だ」
だからエースはウソをついてしまった。
監督生とは友達だったと信じたのなら、恋人がいたことも信じてくれるのではないだろうか。
ウソがバレるまでの間だけでも、甘い顔を向けてはくれないだろうか。
そして、この片想いを葬ってほしい。
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【No.42】AI彼氏
「今日は何を話すつもりだ? この僕が聞いてやろう」
「なんか違う……」
ただの独り言にも律儀に反応をする『マレウス』の言葉を、エースはワンタップで強制終了させた。
マレウスのファンが作った『マレウスAI』らしいが、本物はもう少し優しい。本物に近づけようとしても、しょせん偽物なのだ。
「こんな紛い物と話すなど、とうてい許されることではないぞ」
いつもより低い声が、エースの背後から聞こえた。
──そうそう。こんな感じだわ。
本物はもう少し優しくて、もっとヤキモチ焼きだ。
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【No.43】これを飲んではいけない
いくら気をつけていても、ずっと逃げ続けることは不可能だった。
エースはもがいた。マレウスの拘束は強く、逃れられない。
それでもエースはあきらめない。このままでは、本当にマレウスのものになってしまう。
「やめろよ! やめろって! 正気にもどれってば!」
「僕はいつも正気だ」
抵抗もむなしく、くちびるが重なる。
マレウスの口内に仕込まれていた一つの小さなカプセルが、エースの口内に送られた。
カプセルごとくちゃくちゃと、長い舌で口内を交ぜられる。
やがてカプセルは溶けて、唾液とは違う、トロリとした液体が、エースの口内で混ざっていく。
極度の緊張にさらされたエースの鼻息が荒くなる。
「ふうっ。ふうっ。ふうっ」
この液体を飲むわけにはいかない。
これが何なのか、エースは知っている。
──マレウスが本気で惚れ薬を作っておった。
──エースよ、気をつけたほうがよい。
リリアの忠告が正しければ、この惚れ薬を飲んではいけないのだ。
マレウスの腕の中で、エースは抵抗を続けた。くちびるが離れなくても、絶対に飲んでやるものかと。
口内からの粘膜摂取で、じわじわと効能が効き始めるまで、抵抗は続いた。
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【No.44】真夜中の廊下で
くちゃ。くちゃ。ぴちゃぴちゃ。
真夜中の廊下にひびく、ねばついた水音。
一人の生徒が怖いもの見たさで、音源に近づいていく。
それは、うっすらと見えた。
暗闇の中。あわい夜行灯の向こう側に、誰かがいた。
まともに見えたのは足元だけ。一人分に見えていたが──。
一人の足元のすぐ上に、別の足が、ぶらんと吊るされていた。
二人、いる。
吊るされている足はぴくりとも動かない。
不意に、夜行灯がじりりと鳴り、ほんの少しだけ光を強めた。
人影のりんかくも見えた。
二人が重なって、一人にしか見えない人影が。
人影の目元が、キラリと光った。
遠いそれはなぜかよく見えた。
薄い緑色の、竜の瞳だった。
人ならざるモノににらまれた生徒は、ひきつった悲鳴をあけながら逃げていった。
その後ろ姿など、竜の瞳の気をひくものではない。もう目の前の獲物にしか興味はない。
邪魔者を退治した瞳の持ち主は、ふたたび獲物のくちびるを堪能する。
くちゃ。くちゃ。ぴちゃぴちゃ。
獲物と成り果てたトランプ兵は、あきらめたように、だらんと脱力したまま。
竜の腕の中で、吊るされている。
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【No.45】かくれんぼ
クローゼットの中に隠れるなど、子供のようなかくれんぼだ。
それでもエースはそこに隠れるしかなかった。城の中は隠れられる場所が少ない。
見つかるのは時間の問題だった。
「見つけたぞ、トラッポラ」
クローゼットの床に座り込んだまま、エースは顔を上げられなかった。狂気に染まったドラゴンの瞳など、見たくない。
マレウスがしゃがむ気配がする。耳にキスをされて、いよいよ恐怖が頂点に達した。
エースの体がガタガタと大きく震える。
「許して……」
「ああ。許してやろう。逃げようとした仕置きが済んでからな」
そのささやきを最後に、エースは気絶した。
当時、あえてエースを見逃していた従者の証言によれば、仕置きは一週間、続けられたらしい。
逃げる意思をへし折るには、十分な期間だっただろう。
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【No.46】グラマラスな美女はお好き?
エースは異性愛者だ。だからマレウスの告白を断った。
翌日。マレウスはエースの前に現れた。
グラマラスな美女になって。
「女になってきたぞ」
「行動力ありすぎません?」
二メートル超えの美女の迫力もすごすぎて、やっぱりエースは断った。
しょんぼりとしているマレウスに向かって、エースはさとすように言う。
「ていうか、これでオレがOK出すほうがマズいですよ」
「なぜだ」
「王子様が性別を変えた、なんて、国が黙っちゃいないでしょ」
「既成事実を作ったあとに、男に戻るから問題ない」
「……世継ぎ問題とか」
「お前が産むから問題ない」
エースは心の底から「問題しかねえよ!!」と突っ込んだ。
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【No.47】白い王子様
王子マレウスは、花束を贈ることを知っていても、花遊びは知らなかった。
それを聞いた庶民のエースが、マレウスを草原に連れていく。緑いっぱいの中から白詰草を摘んで、編んでいく。
「はい、どーぞ」
できたばかりの白い草かんむりを、エースはマレウスの頭に乗せた。
今までかぶってきた、どのかんむりよりも、マレウスの心をほわっとさせた。
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【No.48】吊り橋効果
「トラッポラ、危ない」
マレウスはすぐさまエースを抱き寄せた。直後、廃墟の天井がくずれ落ちる。ガレキが落ちた先は、先ほどまでエースがいた場所だった。
廃墟探検に付き合っていた監督生が「うわあ」とつぶやいた。エースは何も言えず、助かった事実を噛みしめていた。
エースはマレウスを見上げる。
「ありがとうございました……」
「構わない。今日の僕はお前たちの保護者なのだから」
マレウスはエースから離れて、天井の破損具合を確かめていく。どこを通ればエースと監督生を無事に歩けさせるのか、考えているようだ。魔法で天井を固めないあたり、廃墟そのものを楽しんでほしい想いが、うかがい知れる。
マレウスの横顔を見つめているエースに、監督生は声をかける。
「大丈夫? どっか打った?」
「……監督生」
「なに?」
エースの目はキラキラと輝いていた。
「マレウス先輩って、あんなにカッコよかったっけ?」
「これが吊り橋効果か……」
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【No.49】はむはむ
寝起きなのも相まって、何をされているのか、マレウスは一瞬わからなかった。
エースに抱きつかれている。
エースの息が耳にかかっている。
エースに耳を食まれている。
「んむぅ……」
はむはむ、はむはむ。
エースは寝ぼけているようだ。
──このねぼすけを、どうしてくれようか。
マレウスは寝起き特有のぼんやり頭のまま、物騒なことを考えだした。
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【No.50】お前が悪い
ドガァン!!
オンボロ寮のすぐ近くで、緑色の雷が落ちた。
エースの肩がピャッと跳ねた。すぐにブルブルと震えだす。哀れな姿だったが、監督生はまったく同情しない。
二人の目の前で、マレウスが転移してきた。
「よくもこの僕から逃げてくれたな、トラッポラ……!」
腹の底から出てきたであろう、マレウスの怒り声。
エースは監督生に目で助けを求めた。
監督生はエースに冷えた目を向けた。
「お前が悪い」
「待ってええ!!」
絶望に満ちた声を残して、エースはマレウスにさらわれていった。
監督生は一人つぶやく。
「どう考えてもエースが悪いって」
一夜を過ごした夜を無かったことにしたいからと、エースはマレウスにウソをついた。
翌朝の幸せな二度寝を拒み、トイレに行きたいから離してほしいとウソをついた。
ベッドから出るのをマレウスに許可されたのをいいことに、そのままオンボロ寮に逃げ込んだのだ。
「ツノ太郎もよくやるよ」
逃げ癖のあるエースを捕まえ続けるのは、けっこう大変なのに。