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結婚前の性行為はダメ!
最近のエースのマイブームは、マレウスに夜這いをすることだった。
エースは未成年だ。本当の性行為をしてはならない。そうマレウスに止められているのにも関わらず、エースは夜這いを続けていた。
すでにベッドの中に忍び込んで、マレウスを引きずりこんでも、マレウスは決してエースに手を出さない。それがエースは不満だった。
「別にいいじゃん。オレがいいって言ってんだから」
エースに馬乗りにされて、股間を押し付けられても、マレウスの拒否は続く。
「ダメだ」
「……さすがにもうオレのこと、まだ赤ちゃんだと思ってないよな?」
「もう思っていない」
言葉通り、マレウスはもうエースを年齢二桁の赤子だとは思っていない。監督生をはじめとする人間たちを見て、人間の年齢を学んでいる。
それでもマレウスはエースに手を出さない、正当な理由があった。
「まだ結婚していないだろう。手を出すのは、契りを結んでからだ」
結婚前に体を重ねるなど、プリンス思考が身に染みているマレウスには到底できなかったのだ。
だからエースは折衷案を出す。もう何度も出している案を。
「キスくらいしてくれたって……」
「何度も言ってるだろう。キスは奇跡を起こす、神聖で尊いもの。契りを結ぶ瞬間にこそ、初めて行われるものだ」
「出たよ、いつもの王子様っぽい発言!」
「僕は王子だ」
「そーいうことじゃねえ!」
ベッドで寝ているマレウスの上にまたがりながら、エースは背を丸め、マレウスの胸元でうめいた。
マレウスは手を上げて、エースの背をそろりと撫でる。
「理解しろ。あとほんの数年くらい、耐えないか」
「やだ! 耐えらんない! いますぐにでも先輩を抱きてえよお!」
「そう言われてもな……」
性的なキスも接触も今はしないまま、なおかつエースを納得させられる手段を、そろそろ見つけるべきか。
マレウスはそう思案を始めたのだろう。頭上から降ってきた声色で察したエースは、余計なことを考えさせまいと、マレウスの胸元にうずめていた顔をあげた。
じっとマレウスを見ながら、開いた胸元を、ちゅっ、と軽く吸う。
「な!?」
不意打ちをくらったマレウスは急いでエースを引きはがす。エースはニヤニヤと笑っている。
「こんなのキスじゃねーよ。口にやんなきゃセーフっしょ」
「しかし、これは」
「なあに? ほんとは我慢してた? オレに触ること、我慢し過ぎて、こーんなことで過剰反応しちゃった?」
マレウスは静かに怒る。
「トラッポラ」
「はいはい。今のはオレが悪かったよ」
つけあがり始めたエースは、再びマレウスの胸元にすり寄る。
「せめてさ、口と口以外のキスくらいはさせてよ」
「……アレを、許せと」
「こちとら先輩の都合に付き合ってやるんだよ? 先輩だって、オレの都合を聞いてくれたっていいじゃん。フェアにいこうぜ」
「ふむ……」
「ね、いいでしょ? マレウス先輩の胸にチューさせて?」
「む、胸か」
「男の胸なんて、性的なもんじゃないでしょ? そこに触って、チューすんの、先輩的にはアウトだったりすんの? 男なのに?」
妙な羞恥心に駆られていたマレウスは、エースの煽りをまともに受けてしまった。
「問題ない。いいだろう。胸に触ることを許可する」
エースは勝ち誇ったままに笑う。
「その約束、しっかり守れよ」
またマレウスの胸に口付けた。
盛り上がった二つの胸筋の谷間を吸う。くちびるをそのまま上に持っていき、首筋に口付けようとした瞬間、マレウスからストップがかかる。
「許可したのは胸だけだ」
「"胸から上が"ダメ?」
「……"下も"だ。胸から下もダメだ」
「腹は?」
「……」
「腹くらい、いいじゃん。性的じゃねーよ」
「いや! ダメだ!」
今回は流されなかった。あわよくば股間までいけないかと思っていたのだが、さすがにそこまでうまくはいかなかった。
けれど言い換えれば、胸だけで危機感を持ってくれた事になる。胸が弱いと白状してくれたも同然だ。
あまりにも素直な婚約者の姿に、エースは笑いを堪えるのに必死だ。
「ふ……く、くく。いい、よ。今日は、胸だけで、あ、ははっ、勘弁、し、してあげる」
「そこで笑うな。くすぐったい」
「ごめんって。ふふ、ふ」
あまりいじめると、本当に止められてしまう。そう危惧したエースは、今夜は中心に触れないと決めた。
二つの胸筋それぞれの中心にある──乳首を犯すのは、日を重ねてからでいいだろうと。
「そう思っていた時期がオレにもありました」
エースはソファに座りながら、今にも死にそうな顔でうなだれていた。
ここはオンボロ寮のゲストルーム。監督生は真顔で「そう」と相槌を打った。ちなみに真顔でいる理由は、相談された内容が、婚約者同士のどうでもいい乳繰り合いにしか聞こえなかったからだ。
エースの向かいのソファに座っていた監督生は、真顔のまま言う。
「僕はさっきから何の相談されてんの? もう聞きたくないんだけど」
エースは恨めしそうに監督生を見る。
「聞け。お前のせいだ。お前のせいなんだからなコレ」
「僕のせいって?」
「マレウス先輩に変なこと吹き込んだの、お前だろ。そのせいで、オレは……オレは……!」
言葉の途中なのに、エースはガバリとシャツをめくり、監督生に胸を見せつけた。
友人のとつぜんの奇行を目の当たりにして、監督生は「何やってんの!?」と叫んだ。負けじとエースも「コレを見ろよ!!」と叫び返した。
監督生は見たくもない男の胸をしっかりと見る羽目になった。
エースの胸には異物があった。異物と言いきるには、肌に馴染んでいるように見えたが。
「……絆創膏?」
エースの乳首には、二つとも絆創膏が貼られていた。中央のガーゼ部分。真っ平らなはずのそれは、二つとも控えめに、しかし存在を主張するように、ポツンと盛り上がっていた。
「マレウス先輩を胸から堕として、屈服させて、抱いてやろうと思ってたのに」
「最低だな」
「まさか、まさか……やり返されるなんて!! 思わねえだろ!」
ここで監督生は、エースがこうなってしまった理由を察した。
エースには黙っていたが、実は監督生はすでにマレウスに相談されていた。
──最近はトラッポラに会うたびに胸がうずいてしまって、悩んでいる。
そう言われた監督生は、ただの惚気だと思っていた。だが話を聞いていくうちに、肉体的な意味で『うずく』のだと知った。友人同士の性事情など知りたくなかった。
よそでやってくれ。監督生は本気でそう思った。けれど面倒を見たい思いもあった。なぜなら監督生はマレウスとエースをくっつけた、いわば恋のキューピッドである。なぜそうなったのかは、また別の話だ。友人どころか、学園や茨の谷をも巻き込んだ恋のすったもんだの詳細を語ったが最後。砂糖の吐き過ぎで死んでしまう。
結局突き放せなくて、マレウスの悩みの解決策を提案してしまったのだ。
「『いっそ襲い返せばいいよ』とは言ったけど。あれ、本気にしちゃったかあ」
「ほら!! やっぱりお前のせいじゃん! どーしてくれんだよ! もう絆創膏でガードしねえと、まともに服も着られねえ」
「でもさあ、先に襲ったほうが悪いでしょ」
エースは開き直る。
「いーや。10代の性欲なめてるマレウス先輩が悪いね。だいたい口と口のキスすらダメって何? 恋人どころか婚約してんのに? 枯れてんのか、あの人」
「それ絶対ツノ太郎に言っちゃダメだよ」
「わーってるよ」
エースを想うがゆえの行動だったという事くらい、エースも理解している。それでも気に食わないものは気に食わない。やり返されたのなら、なおさら。
たくしあげたシャツを下ろしたエースは肩を落とす。
「なんとかしてよ、監督生」
「無理だよ」
「だからそこをなんとか」
「だから無理だってば」
「じゃあせめてオレを組み敷くのやめるように頼んでくれよ!」
「はあ……上になりたいの?」
エースは深くうなずく。
「あんな綺麗な人は下になったほうが……そのー……絵になるじゃん。いやほんとに絵にさせるわけじゃなくて。目の保養っつーか。男の本能が満たされるっていうか」
「そう。でもそれ──」
続きを言おうかどうか、監督生は少し悩む。
エースの視線を受けて、結局言う。
「ツノ太郎も同じ感じなこと言ってたよ」
「……何を?」
「トラッポラはかわいいから──」
エースは驚きのあまり、ソファからビョンっと跳ねて、床に転がった。自分のすぐ背後で、マレウスの声が聞こえてきたからだ。
ワタワタと情けなく監督生のそばまで避難してきたエースを見て、マレウスはほほ笑む。改めて続きを言う。
「トラッポラはかわいいから、ベッドの中では僕に組み敷かれるべきだ。そうヒトの子に言ったんだ」
「そ、そん、な」
「『そんなこと聞いてない』と言いたそうな顔をしているな? ふふふ。自分が抱く側だと信じている婚約者が愚かで愛らしくて……その姿を結婚するまで堪能したかったものでな。僕が抱くほうだと明かさないまま、泳がせたんだ」
マレウスはエースにさっと近づいた。エースは監督生にすがりついた。監督生は迷わずエースをマレウスに差し出した。エースは「ちょっと監督生!?」と抗議した。監督生はエースを無視して、マレウスをねぎらう。
「災難だったね」
「ああ。結婚するまでは手を出さないと決めていたのに。気が早い婚約者を持つと、心労が多くなる」
監督生との会話を終えたマレウスは、エースの顔に、自身の顔を近づける。すり、と鼻をこすり合わせる。
「僕の胸元にキスしたとき、お前はこう言ったな。これだけで過剰反応するなど、本当は自分に触れたくてたまらなかったのではないか、と」
「い、言った、かな? 覚えてないなー……」
「僕は覚えている。ああ、いつまでも覚えているとも。図星だったからだ。本当は僕もトラッポラに触れたかった。それでも、どうしても、結婚前の性行為だけはしたくなかった。だと言うのに……」
わざとらしく言葉を切ったマレウスはエースから顔を離す。代わりにその身を横に抱き上げた。「ぎゃあ」と悲鳴をあげたエースをチラリと見てから、ソファに座ったままの監督生を見下ろす。
「僕たちはここで退席しよう」
「うん。そうして」
そして縮こまっているエースに、とびきりの笑顔を見せた。
「触るのなら、触られる覚悟も持つべきだ」
まったくもって、その通り。監督生はエースをかばわず、ひらひらと手を振る。転送魔法で消えた二人を見送った。
「面倒を見ることにならなくてよかった」
そろそろグリムが補習から帰ってくる頃だ。
監督生もゲストルームから退席した。
あの後、エースが抱かれる事はなかった。結婚前の性行為はしない、というマレウスの心も本物だったのだ。
その代わりに、エースはマレウスに乳首をたっぷり触られた。どう触られたかを……エースは誰にも言わなかった
絆創膏越しに触られただけでもしっかり反応してしまうほどに弱くなった乳首の詳細を、誰が語れるものか。