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第13話:落ちこぼれの進撃
タヌキ
第13話:落ちこぼれの進撃
「……いたた。……すごいです、神風先輩。本当に、ダメージを、与えられちゃうなんて……!」
雪の上にひっくり返った灰人が、胸を押さえながらも目をキラキラと輝かせる。
俺は特訓で痛む右腕をさすりながら、フッと不敵に笑ってみせた。よし、先輩としての威厳はバッチリ保てたな。
ジジイがこたつに戻ってずずっと茶をすする中、それまで黙って見ていたレンが、思い出したようにポンと手を叩いた。
「なぁ迅。そういえばさ、お前『ランクアップ戦』受けないの?」
「……え? ランクアップ戦?」
聞き慣れない単語に、俺はマヌケな声をあげた。
「そうよ、神凪」
氷華が腕を組んだまま、冷徹な、だけどどこか真剣な目でこちらを見る。
「学園では定期的に、実力を証明して上のクラスに上がるための『ランクアップ戦』が開催されているわ。ガミジンを倒し、私の祖父の特訓にも耐えた今のあなたなら、Dクラスに留まっている理由なんてないはずよ」
「いや、でも俺、元々はただの『そよ風砲』だし……」
「何言ってんだよ!」
レンが俺の肩をガシッと組んでニヤリと笑う。
「今の迅の風は、ただのそよ風じゃねえ。灰人の無敵の影すら力技で圧し潰す『烈風』だろ? 学園の上の連中に、お前の本当の力、見せつけてやろうぜ!」
「先輩の戦う姿……公式戦で見てみたいです!」
部屋の隅から灰人も身を乗り出して応援してくる。
みんなの熱い視線が俺に集まる。
Dクラス。落ちこぼれ。無能。
これまで学園の奴らから言われ続けてきた言葉が、頭の裏をよぎった。
(……そうだな。いつまでも、落ちこぼれのままでいるつもりはねえ)
復讐を果たすためにも、まずはこの学園の頂点へ駆け上がってやる。
「よし……わかった。受けに行くよ、ランクアップ戦!」
俺が拳を握りしめて宣言すると、レンが「よっしゃあ! そう来なくっちゃな!」と大喜びで俺の背中を叩いた。ジジイはこたつの中で「ふがふが、暴れてくるがよい」と、送り出すように不敵に笑っていた。
――こうして、俺たちは一度、極上地獄門の修行場を離れ、懐かしき学園の試験会場へとやってきた。
今回の試験は『Cクラスへのランクアップ戦』。
会場である巨大なドーム状の演習場には、上のクラスを目指すDクラスの生徒たち、合計100名がひしめき合っていた。
すれ違う生徒たちが、俺の姿を見てクスクスと指をさして笑う声が聞こえてくる。
「おい見ろよ、Dクラスの落ちこぼれ、神凪だぜ」
「またそよ風でゴミ掃除のボランティアでもしにきたのか?」
相変わらずの陰口。観客席で見守るレンが「今に見てろよモブども……」と低く笑い、氷華がフンと鼻で笑う。初参戦の灰人は「先輩、頑張ってください……!」と客席で両手を強く握りしめていた。
やがて、試験官の先生の冷徹な声がスピーカーから鳴り響いた。
『これより、Cクラス昇格試験を開始する。第1ステージは――【100人サドンデス】だ。ルールは単純。この広いステージの上で全員で戦い、残った20名だけが次のステージへと進める。それでは……始め!』
「うおおおおお!」
「まずは数を減らすぞッ!!」
開始の合図と共に、100人の生徒たちが一斉に魔力を爆発させ、大きな爆音と共に乱戦が始まった。
あちこちで炎の球が飛び交い、氷のトゲが地面から突き出し、演習場は一瞬にしてド派手な戦場へと変わる。
その乱戦の真ん中で、3人の大柄なモブ生徒が、ニヤニヤしながら真っ直ぐに俺を囲んできた。同じDクラスの中で、いつも俺を小突いてバカにしていた奴らだ。
「おい神凪! 運良くここまで残れたみたいだが、まずは小手調べにお前からはじき出してやるよ!」
「おいおい、ビビってそよ風も出せないんじゃねえか? ほら、燃えちゃいな!」
炎の魔力を拳にまとったリーダー格の男が、容赦なく俺の顔面に向けて殴りかかってくる。左右からも、鋭い泥の弾丸と、風の塊が同時に俺の逃げ道を塞ぐように迫る。
(……ジジイの地獄の特訓や、魔界の悪魔たちに比べたら、お前らの動きは止まって見えるぜ)
俺は一歩も動かず、足の裏でしっかりと大地を掴んだ。
体の芯を一本のバネのように連動させ、右拳を静かに引く。ただ魔力をぶつけるんじゃない。ガミジンを倒した時のように、周囲の空気そのものを巻き込んで、巨大な「杭」へと変えるイメージだ。
「どけ。――お前らに構ってる暇はねえんだ」
迫り来る炎の拳の直前、俺は真っ直ぐに右拳を突き出した。
「――『烈風(インパクト)』ッ!!!」
俺の拳から放たれた衝撃波が、ドーム全体に「ドッパァァァンッ!!!!」と鼓膜を引き裂くような大爆音となって炸裂した。
「ぎゃああああああ!?」「うわあああっ!?」
目の前にいた3人は、自分が何をされたのかすら理解できないまま、俺の放った圧倒的な爆風に巻き込まれ、まるで台風に吹き飛ばされた枯れ葉のようにまとめてステージの外壁まで消し飛ばされた。激しく壁に激突し、白目を剥いて一撃で気絶する。
しかし、俺の烈風はそれだけでは止まらなかった。
ドゴゴゴゴゴゴオオオッ!!!
凄まじい風の圧力の余波が、ステージの左右で小競り合いをしていた他の受験生たちをも巻き込んでドーム全体へと広がっていく。
魔法を構えていた奴も、身を守ろうと盾を掲げた奴も、その凶悪な風圧の前に全員がまとめて後ろへと消し飛ばされていった。演習場の砂煙が激しく舞い上がり、視界が真っ白に染まる。
やがて、ゆっくりと風が収まり、砂煙が晴れていった。
「な、なんだ今の風圧は……。おい、嘘だろ……?」
会場中が、凍りついたような恐ろしい静寂に包まれる。
気がつけば、あれだけいた100人の受験生のうち、ステージの上にまともに立っていたのは、20人どころか、わずか7人だけだった。他の93人は、俺が放ったたった一撃の余波だけで、全員ステージの外へ弾き出されるか、その場にのされて転がっていたのだ。
「あ、あいつ本当にあの『そよ風砲』の神凪かよ……?」
観客席のモブ生徒たちが、ガタガタと体を震わせながら俺を指さす。
試験官の先生も、持っていた採点用の端末を床に落とし、マイクを持つ手を震わせながら呆然と叫んだ。
『し、試験終了……! 生存者、わずか7名! 合格ラインの20名に達していないため、この場に残った7名全員を――第1ステージ合格とする!!』
わあああ!と、観客席の一部(レンと灰人)から大歓声が上がる。
俺は痛む右腕を軽く回しながら、不敵にニヤリと笑った。
まずは1つ目だ。
周囲の驚愕の視線を全身に浴びながら、俺はさらに強者が待つ第2ステージへと視線を向けた。