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第6話
「薫が……女を連れてくるだと?」
正殿のキッチン。長兄の明は、ひいなにデレデレしていた鼻の下をピリッと引き締めた。
「ええ。お兄様、夏の町をうろうろしておりましたから」
末っ子の三葉が、アメジストの指環を光らせながら報告する。
その時、玄関から薫の声が響いた。
「……皆さん、入りますよ。……さあ、真琴さん、こちらへ」
リビングに現れたのは、緊張で少し顔をこわばらせた、ごく普通のOL・橘真琴だった。
その瞬間、朱雀院家の「普通じゃない」面々が彼女を囲む。
「……初めまして。橘真琴と申します。あの……これ、お近づきの印に、ポテトサラダを作ってきました……!」
真琴がおずおずと、100均のタッパーを差し出す。
「な、なんだって……っ!?」
明が声を震わせた。
「あの『恋をする暇があったら藤と椿を』と言っていた薫が……人間に、しかもこんなに素敵なお嬢さんに触れているだと!? ひいな! これは現実か!?」
「まあ明さん、落ち着いて。……真琴さん、よくおいでくださいました」
ひいなが優しく微笑む横で、次姉の二葉がブルートパーズの指環を光らせて真琴を凝視する。
「……橘真琴さん。あなた、100均のタッパーを愛用しているのね。……合理的だわ。気に入ったわ」
「え、ええ……。使いやすいので……」
真琴は、3000億円の邸宅の住人たちが全員、特売品の話をしていることに、衝撃を隠せなかった。
「真琴さん! 私、三葉です! 買い出し担当やってます! そのポテサラ、後でレシピ教えてね!」
三葉が人懐っこく笑いかけると、真琴の緊張が少しだけ解けた。
「……ふっ、見たか、三葉。真琴は私の目に狂いなどなかっただろう?」
薫が、どこか誇らしげに、しかし耳を真っ赤にして言った。
「お兄様、自慢してる暇があったら、真琴さんに中を案内してあげなさいよ!」
こうして、普通のOL・真琴と、世間離れした「質素な財閥一族」の、奇妙で暖かい交流が始まった。