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第9話
雪が降る冬の日。
薫は、真琴のアパートまで自ら迎えに行き、彼女を朱雀院邸へとエスコートした。
「……真琴さん。今日は、私たちの『家』で、あなたに伝えたいことがあるのです」
二人が辿り着いたのは、邸内でも最も月が綺麗に見える「正殿」のテラス。
そこには、三葉と葵が100均で買い揃えたキャンドルが幻想的に灯り、二葉の奏でる琴の音が風に溶けていた。
「真琴さん。私はあなたから、本当の豊かさを教わりました。……私の妻になっていただけますか?」
薫が差し出したのは、母・紫苑の形見、パパラチアサファイアの指環。
「はい……! 喜んで!」
真琴の返事と同時に、物陰から三葉たちが飛び出した!
「やったわーーー!! 成功よ!! さあ、お兄様、真琴さん、冷めないうちにキッチンへ!!」
プロポーズの余韻も冷めぬまま、一行は正殿の巨大なキッチンへ。そこには、一族が今日一日の総力を挙げた「お祝い」が待っていた。
「さあ、二人とも座ってくれ! 俺のじっくり煮込んだ具材と、ひいなのふわふわの焼きが合体した、特製オムライスだ!」
明がデレデレしながらも誇らしげに皿を運ぶ。
「薫兄様の……涙のみじん切り玉ねぎもたっぷり入っているわ。……私が炊いた新米との相性も合理的よ」
二葉がブルートパーズを光らせ、葵も誇らしげに頷く。
「真琴さん! 私が特売で買ってきた最高級の卵を使ってるんだから! 遠慮しないで食べて!」
三葉がアメジストの指環を掲げて笑う。
薫と真琴は、並んでスプーンを手にした。
「……美味しい。薫さん、皆さんの味がします」
「……ええ、真琴さん。これこそが、朱雀院家の『風雅』なのです」
薫は、絆創膏の貼られた指で、真琴の手をそっと握った。
3000億円の邸宅、100円のキャンドル、特売の食材。
そして、何よりも大切な「家族」と「愛する人」。
「……いいか、みんな。朱雀院家はこの『質素生活』を変えるつもりはない。だが、愛する者のためには、いつでも最高に『奮発』する一族であり続けよう」
父・優が、新米を頬張りながら満足げに宣言した。
正殿のキッチンに響く笑い声。
それは、デジタルゲームの音よりもずっと賑やかで、どんな贅沢品よりも贅沢な、朱雀院家の「昔から変わらない」最高の夜の音だった。
逆に失敗してたらどうなってたの?