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第2話
「三葉、今日の100均の巡回ルートは決まった?」
音もなく現れた二葉が、ブルートパーズの指環を冷たく光らせながら問いかけた。彼女の手には、完璧に印字された「100均購入推奨リスト」が握られている。
「もちろんよ、二葉お姉様! 今日はキッチン消耗品の在庫一掃セールと、お兄様たちが使う園芸用品を揃えなきゃ」
三葉はアメジストの指環を誇らしげに掲げ、愛車のママチャリに跨った。今日は特別に二葉も同行するという。3000億円の邸宅の門番たちは、プチプラのパーカーを羽織った二人の令嬢が自転車で爆走していく姿を、敬意を込めて見送った。
「見て、二葉お姉様! このレンジでパスタが茹でられる容器、100円よ!」
「……甘いわね、三葉。それは旧型よ。こちらの『蒸気抜き穴付き』の方が、電気代を3%削減できる。こちらを買いなさい」
二葉は、雪景色を愛でる時と同じような澄んだ瞳で、プラスチック容器の裏の耐熱温度をチェックしている。
「さすが……! 100均は最強の知恵の宝庫ね……」
その時、二人の目に、文房具コーナーで立ち尽くす一人の男の背中が映った。
次兄の薫だ。
「……お兄様? 何してるの?」
三葉が声をかけると、薫はハッとしたように振り返った。その手には、100円のキャラクターシールが握られている。
「……あ、あぁ。三葉か。いや、私の万年筆……コンビニの付録だが、これに合うデコレーションを探していたのだ。この100円のシール……実に、風雅だと思わないか?」
「お兄様…まあいいわ、それはお兄様の自腹でね!」
帰宅後、正殿のキッチンでは、長兄の明が煮物の黄金比を追求していた。
「ひいな、今日の醤油は三葉が特売で買ってきたものだが……君が隣にいてくれるだけで、高級料亭の味になるよ」
「まあ、明さんったら。じゃあ、私は三葉ちゃんが買ってきた100円の便利グッズで、目玉焼きを綺麗に焼き上げますね」
今日は薫のみじん切りはお休み。だが、朱雀院家には秘策があった。
「今日は二葉お姉様の出番ね!」
「……ええ。米は完璧に炊けている。あとは、私が100均で厳選した『冷凍ハンバーグ』をレンジでチンするだけ。無駄な火力は使わない。これが私の美学よ」
二葉がブルートパーズの指環を光らせてスイッチを押すと、キッチンに「ピッ」という潔い音が響く。
「さあ、みんな! 炊きたての白米と、明兄様のじっくり煮物、そして二葉お姉様が魂を込めてチンしたハンバーグよ! 食べましょう!」
豪華な金銀の食器ではなく、100均で買った「軽くて割れない、節約時代の名器」に盛り付けられた夕食。
「うむ。100円のハンバーグが、これほどまでに味わい深いとは。民の知恵には恐れ入るな」
父・優も満足げに箸を動かす。
国家を超える資産を持ちながら、100円の価値を誰よりも愛し、語り合う。
朱雀院家の夜は、スマホの光ではなく、家族の笑顔と「次はどの100均に行くか」という熱い議論で更けていくのだった。