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第3話
朱雀院邸に夜が訪れた。それぞれの屋敷に夕食の匂いが漂ったあと、兄弟姉妹は吸い寄せられるように寝殿に集まってくる。
「さて……今夜も始めようか。朱雀院家、恒例のアナログ夜会を」
長兄・明が、パチリと指を鳴らした。その視線の先にあるのは、三葉が昔、初めてのお使いで買ってきた、使い古されて少し角が剥げた100円のトランプだ。
「ゲーム禁止」という父・優の教えを守る彼らにとって、これが唯一にして最大のエンターテインメントだった。
「今夜の種目は『大富豪』。負けた者は……明日の早朝、家庭菜園の堆肥撒き担当だ!」
「望むところよ! 私、アメジストの指環に誓って負けないんだから!」
末っ子の三葉が気合十分にカードを配る。戦いは一瞬で熾烈を極めた。
「ひいな、この『2』のカードを君に捧げるよ。これで上がれるだろう? 」
「明兄様っ! 公私混同よ! ひいな様に甘すぎ!」
長男・明がデレデレしながらひいなに有利な札を回し、三葉の怒号が飛ぶ。
その隣で、次男の薫は真剣な表情でスコア表を書き込んでいた。
「ふむ……カードの配分、確率、そして皆の表情。この不確実性こそが風雅。……おや、二葉。また『革命』か?」
「……ええ。私は常に冷徹よ、薫お兄様」
次女の二葉が、ブルートパーズの指環を光らせながら無表情に「4」のカードを4枚叩きつけた。妹ながら、トランプを持たせると一切の感情を消す「氷の女王」へと変貌する二葉に、薫も思わず唸る。
「……みんな、集中しすぎてライトをつけすぎよ。一つ消すわよ」
三葉が広間の照明を半分に落とした。薄暗い中、100均で買ったロウソクに火を灯す。
「見て……この炎の揺らめき。トランプの絵柄が幻想的に見えるわ……」
「三葉、それは単なる『節約』だが……今の光景、実に風雅だ。一首詠めそうだよ」
薫は感動した。
「兄様、感傷に浸ってる暇があったらカード出して! はい、パス!」
結局、一晩中盛り上がった結果、負けたのはデレデレしすぎて自分の手札を疎かにした明だった。
「くっ……明日の堆肥撒きは俺か……。だが、ひいなが勝てたのなら、俺は本望だ……!」
「明さん……。明日、私もお手伝いしますわね」
二人の世界に入り込む当主夫婦を横目に、三葉はアメジストの指環を愛おしそうに撫でた。
「スマホもゲーム機もないけれど、こうやってみんなで笑ってる時間が、一番贅沢よね」
「……三葉、たまには良いことを言うわね。でも、ロウソクがもうすぐなくなるわ。1本5円よ。早く寝なさい」
二葉のクールなツッコミに、みんながドッと笑う。
3000億円の邸宅。広大な四季の町。
そこで100円のカードを囲み、兄が妹を、妹が兄を、時に厳しく時に温かく見つめ合う。
朱雀院家の「不変の日常」は、今夜も特売のロウソクの火のように、温かく揺れていた