公開中
第4話
「あら、相変わらずこのお屋敷は静かですこと。… 玄関の靴箱の上に、100均の消臭剤が置いてありますわね。やっぱり実家は落ち着きますわ」
そう言って優雅に正門を潜ったのは、九条家に嫁いだ一花だ。彼女の指には、母・紫苑から受け継いだ、優しく輝くモルガナイトの指環がはめられている。
「一花お姉様! お帰りなさい!」
末っ子の三葉が、菜園で採れたばかりの泥付き大根を抱えて駆け寄る。
「三葉、元気そうね。……あら、そのアメジスト、今日も綺麗に磨いているわね。偉いわ」
一花の帰省に合わせて、今日は「正殿」のキッチンがいつになく賑やかだ。
朱雀院家の5人兄弟姉妹が、久しぶりに全員揃ってキッチンに立つ。
「一花、九条家での食事も良いが、今日は俺とひいなで、最高に煮込んだ肉じゃがを振る舞うよ」
「まあ、兄上。相変わらずひいな様の前ではだらしないお顔ですこと」
一花がクスクスと笑う。明はデレデレしながらも、一花のために奮発して三葉が買ってきた特売の和牛を、職人芸のような火加減で煮込んでいく。
「姉上。九条家には風雅はありますか? 私は今日、この大根の葉を、万年筆で描いた設計図通りに刻むつもりです」
「薫、相変わらずね。でも、あなたのその『気合い』、私は嫌いじゃないわよ」
薫は妹の二葉が炊き上げたピカピカの新米の香りを吸い込みながら、包丁を握り直す。
夕食時、5人の指にそれぞれの石が輝く。
モルガナイト、ブルートパーズ、アメジスト……。そして、兄たちの手。
「お母様が仰っていたわ。『私の指環は、可愛い5人の子にあげるわ』って」
一花が、モルガナイトを愛おしそうに見つめる。
「私たちは、国家を超える資産を持ちながら、こうして100円のトランプで遊んで、家族で笑い合っている。お母様は、私たちが贅沢で壊れてしまわないように、この『心』を遺してくれたのかもね」
「そうだな」
父・優が静かに頷く。
「一花、九条家でも朱雀院の『質素の美学』を忘れるなよ」
「もちろんですわ、お父様。あちらでも、お風呂の残り湯は洗濯に使っておりますから」
「さすが一花お姉様!!」
三葉が感嘆の声を上げる。
その夜、5人は久しぶりに「100円のトランプ」で夜通し遊んだ。
一花が帰り際、薫の肩をポンと叩く。
「薫、あなたもそろそろ、その『パパラチアサファイア』を渡す相手が見つかるといいわね」
「……姉上、私は藤と椿があれば十分ですよ」
薫は涼しい顔で答えたのであった。