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6月特別編その3
ショッピングセンターでのあの雨の放課後から、さらに数日が過ぎた。6月の雨は相変わらず教室の窓を叩き続けているけれど、私の心はあの日に置いていかれたまま、すっかり感覚を失ってしまっているようだった。ガラガラと朝の教室の扉が開いて、舞ちゃんと凛さんが入ってくる。「ねえ凛、そのペンケースに付けてるキーホルダー、めっちゃウケるんだけど!」「は? ウケるとか失礼だし。あんたのそのガチャガチャの景品よりマシでしょ」二人の机の上には、あの日お揃いで買ったクリアタイプのペンケースが当然のように並んでいた。舞ちゃんは私のことなんて、もう1ミリも気にしていない。テストで良い点数を取って、席替えで凛さんと隣同士になって、お揃いのペンケースを買って。今の舞ちゃんの日常は、私という存在が綺麗に消え去った状態で、何一つ不自由なく、最高に楽しく回っているのだ。『そういえば最近、葵とあんま話してないなー』いつだったか、昼休みに舞ちゃんが私の背中の向こうで、そんな風に呑気に呟いていたのが聞こえた。寂しがっているわけでもなく、怒っているわけでもない。本当に、ただ「そういえば」と思い出しただけの、他人事のような声。あの図書室での大喧嘩は、私にとっては世界がひっくり返るほどの大事件だった。だけど、思ったことをその場で吐き出してすっきり忘れるタイプの舞ちゃんにとっては、もう「終わったこと」であり、ただの過去に過ぎないのだ。(……そっか。本当に、もう私は必要ないんだね)舞ちゃんの笑顔の理由が自分じゃないという現実は、思った以上に冷たくて、私の胸の奥をじりじりと焦がした。だけど、その激しい嫉妬をぶつける場所なんて、今の私にはどこにもなかった。◇「ねえ、葵ちゃん。次の移動教室、一緒に並んで行こう?」「あ、うん。いいよ」舞ちゃんと離れてから、私はクラスの大人しくて目立たない女の子たちのグループへ入ることになった。みんな物静かで、お淑やかで、大声を出す人なんて一人もいない。私が一番安心できるはずの、静かな世界。だけど――ここにいる時間は、驚くほど居心地が悪かった。「お昼、何食べる? 私は購買のサンドイッチにしようかな」「あ、私もサンドイッチにする!」「じゃあ、私もそれにしよっかな……」みんな、周りの意見に合わせることばかりを最優先にしている。誰一人として「これが食べたい」「それは嫌だ」なんて言わない。みんながみんな、4月の頃の私と同じように、嫌われたくないから、グループの空気を壊したくないからという理由だけで、自分の本当の気持ちに鍵をかけてニコニコ笑っているのだ。「葵ちゃんはどうする?」「え……? あ、私も、みんなと同じサンドイッチでいいよ」本当は、お母さんが作ってくれたお弁当があるのに。そう言い出せなくて、私はお弁当箱をバッグに隠したまま、また周りに合わせて嘘をついた。みんなで並んで廊下を歩いているとき、向こうから「ちょっと凛、待ってってば!」と騒がしい声が響いてきた。舞ちゃんと凛さんが、お互いに「あんたが遅いのが悪いでしょ!」「はぁ!?」とガサツに言い合いをしながら、楽しそうに笑ってすれ違っていく。その姿を見送る私のグループの子たちは、「長谷川さんたち、また騒がしいね」「ちょっと下品だよね」「あんなふうにはなりたくないわ」と、クスクスと影で笑い合っていた。その言葉に、私はどうしても合わせることができなくて、ただ曖昧に微笑むことしかできなかった。下品なんかじゃない。私のグループの子たちはそもそもあんな風になれないだろうに。あんな風に、思ったことをそのまんまぶつけ合って、喧嘩をして、それでも次の瞬間には爆発したみたいに笑い合える。そんな二人の姿が、周りに合わせて息を詰まらせている今の私にとっては、眩しくて、眩しくて、たまらなく羨ましかった。だけど、私にはできなかった。舞ちゃんが「おんぶして」と甘えてきたとき、凛さんみたいに「重いから無理!」って笑って突っぱねることが、どうしてもできなかった。私はどこまでいっても、他人に合わせて無理をして、勝手に限界を迎えて壊れてしまう、中途半端な臆病者なのだ。結局、うちらは最初から、根本的な性格が合っていなかったんだと思う。4月の満開の桜の下で、偶然出会って、勢いだけで「凸凹だけど最強の相棒」になれたような気がしていたけれど。それはただの、一時的な幻だったのだ。一度外れてしまった歯車は、どれだけ雨が降ろうとも、二度と噛み合うことはない。キーンコーンカーンコーン……。放課後を告げるチャイムが鳴り響く。隣の席の凛さんと「ねえ、今日の放課後もポテチね!」「太るからダメ!」と賑やかに教室を出ていく舞ちゃんの背中を、私は自分の席から静かに見つめていた。舞ちゃんは一度も、私の席を振り返ることはなかった。窓の外では、6月の冷たい雨がシトシトと降り続いている。私は自分の白紙のノートを静かに閉じると、賑やかな教室の片隅で、ただ一人、交わらなくなった相棒の背中を、いつまでも静かに見送るのだった。
このシリーズ終わらせたいので予約投稿2個まとめました
2次創作にするか、、新しく作るか、、自主企画でネタを集めようか、、、
次回やること決まったら予告しますね(小説以外のところで)