公開中
作った答えは強がることと愛想笑いで。
おもち
--- **当日** ---
洗練されたオフィスの受付を済ませ、案内された会議室の重い扉を開ける。
緊張で呼吸を忘れそうになっていた私の目に飛び込んできたのは、スカウト担当の社員さんだけではなかった。
「あ、いらっしゃい!待ってたよ」
そこに座っていたのは、STPRの設立者であり、すとぷりのリーダーであるななもりさん、そして各グループを牽引するリーダー陣の姿だった。
画面の向こう側、雲の上の存在だったトップクリエイターたちが、今、目の前で優しく微笑んでいる。あまりのオーラに足がすくみそうになった私の背中を、お兄ちゃんがそっと押してくれた。
「初めまして。七五三掛 恋白です。歌い手の『りんね』として活動しています。こちらは兄の真白です」
「お忙しい中、妹のためにこのような場を設けていただきありがとうございます」
お兄ちゃんは一歩前に出ると、緊張する私を守るように、大人の社会人とも対等に渡り合える落ち着いた声で頭を下げた。
席に着くと、ななもり。さんが穏やかな口調で語りかけてくれた。
「『今はいいんだよ。』も『ロストワンの号哭』も、全部聴かせてもらったよ。本当にすごかった。高校生という若さで、あそこまで感情を剥き出しにして、リアルな息苦しさを叫べる表現力はまさに天才的だと思う。STPRに新しい風を吹かせてくれるって、みんなで確信したんだ」
その言葉に、スカウト担当の方や他のリーダーたちも深く頷く。
「この年齢だからこそ響く叫びが、あの動画には詰まっています。100万人という数字も納得の圧倒的なクオリティです」
プロの大人たちから向けられる、嘘偽りのない大絶賛。
学校では地味で、都合のいい存在として愛想笑いを浮かべ、強がっていた私の歌声が、日本のトップを走るクリエイターたちの心を本気で動かしたんだ。
胸の奥が熱くなり、じわりと涙がにじみそうになる。
だけど、話が具体的な活動環境や、私の今後の生活に及ぶと、お兄ちゃんの目がきりりと引き締まった。
「お言葉、本当に光栄です」とお兄ちゃんは感謝を述べた後、真剣な眼差しで切り出した。
「ただ、妹は『りんね』としての活動に専念するため、先日高校を退学いたしました。これからは私が自宅で勉強を教え、高卒認定の取得を目指します。STPRさんへの所属は本人も私も強く望んでいますが、活動が本格化しても、彼女の心身の健康と、学習のための時間をしっかりと確保できる環境をいただきたいのです」
20歳とは思えないほど、冷静で、論理的で、どこまでも妹想いな提案。
ななもり。さんはお兄ちゃんの言葉を遮ることなく、真摯な態度で最後までじっくりと耳を傾けてくれた。
そして、深く頷いた。
「素晴らしいお兄さんですね。安心してください、STPRはクリエイターファーストの事務所です。恋白さんの学業や健康を犠牲にするようなスケジュールは絶対に組みません。むしろ、お兄さんが家庭教師として支える時間も含めて、僕たちが全力でバックアップします」
ななもりさんのその一言で、会議室の空気が一気に温かいものへと変わった。
お兄ちゃんが私を信じてくれたように、この事務所もまた、私という人間を丸ごと受け入れようとしてくれている。
面談が終わり、オフィスを出て渋谷の街を歩く。
夕方の心地よい風が、火照った頬を優しく撫でた。
「お兄ちゃん、すごかったね……。私、本当にSTPRで頑張れる気がする」
「ああ。良い事務所でよかった。恋白、これからはもう、誰のための愛想笑いもいらない。お前の本当の歌声を、あの場所から世界中に届けておいで」
お兄ちゃんが眩しそうに目を細めて笑う。
作った答えで強がっていた16歳の私は、もうどこにもいない。
最強の家族と、心強い仲間たちに支えられ、私は「りんね」として、本当の未来へと歩き出した。
クリエイターファーストはおもちがなんとなくで思ったことです。本当かどうかはわかりません。ただそんな感じがしたのみです。あくまでフィクションとしてこの先のお話もお楽しみください。