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作った答えは強がることと愛想笑いで。
おもち
--- **負担** ---
チャンネル登録者数100万人という数字は、私の世界を根底からひっくり返した。
最も大きな変化は、自分の歌声で、まとまった収入を得られるようになったことだった。
動画の収益や配信のスパチャが口座に振り込まれた口座残高を見たとき、私とお兄ちゃんはリビングでしばらく言葉を失った。
「……お兄ちゃん、これ」
「恋白、すごいな。これでお前の将来の学費も、生活費も、もう何も心配いらないよ」
真白はそう言って、肩の荷が降りたように心の底から笑った。
それからすぐ、真白はいくつも掛け持っていた過酷な深夜バイトをすべて辞めることができた。今は日中の無理のない仕事一つだけに絞り、夜はちゃんと家で一緒にご飯を食べ、夜更かしをせずに眠れている。
真白のすっきりとした寝顔を見るたび、胸の奥が温かくなる。
私が学校で愛想笑いを浮かべ、強がって生きることで守ってきた家庭。
だけど、本当にこの家を救ったのは、防音ブースの中で叫び続けた「りんね」の歌声だったのだ。
真白の負担を劇的に減らせたことが、何よりも嬉しかった。
そんなある日の夜、私の公式XのDMに、ひとつの通知が届いた。
青い公式の認証バッジがついたアカウント。
そこには、ネットで活動する誰もが知っている、あの有名歌い手事務所「STPR」の名前があった。
『りんね様。突然のご連絡失礼いたします。株式会社STPRのスカウト担当と申します。りんね様の唯一無二の歌声と、圧倒的な表現力に深く感銘を受けました。もしよろしければ、弊社の所属歌い手として、さらに大きなステージで一緒に活動をしませんか?』
「……え、STPR!?」
あまりのビッグネームに、私はベッドの上で思わず声を上げた。
すとぷりや騎士A、AMPTAKxCOLORSなど、トップクラスの歌い手たちが所属する、あの憧れの事務所だ。
「どうしたの、恋白。そんな大声出して」
温かいココアが入ったマグカップを二つ持って、真白が部屋に入ってきた。
私は震える手でスマホを真白に差し出す。
「お、お兄ちゃん、これ見て……!STPRから、所属しないかってDMが来た……!」
お兄ちゃんはスマホを受け取り、メッセージをじっと見つめた。
そして、ふっと優しく微笑んだ。
「すごいじゃん、恋白。100万人を超えて、ついに本物のプロから声がかかったんだね。……どうする? 挑戦してみたい?」
真白の寛容な問いかけに、私はココアの湯気を見つめながら、少しだけ考え込んだ。
事務所に入れば、もっと機材も、オリジナル曲の制作環境もプロ仕様になる。
ライブだってできるかもしれない。
だけど、それは「りんね」の存在がさらに大きくなり、今よりもっと世間の目に晒されることを意味していた。
リアルな学校生活とのバランス、そして何より、顔出しをせずにどこまでこの「作った答え」の二重生活を続けられるのかという不安が、頭をもたげる。
「私……まだ怖いな。学校では、相変わらず地味な七五三掛恋白のままだし。みんなにバレたらって思うと……」
いつもの癖で、少しだけ弱音を隠すように強がって笑おうとする私に、お兄ちゃんはそっとココアのカップを握らせてくれた。
「怖いなら、焦らなくていいんだよ。でもさ、恋白。お前が『今はいいんだよ。』や『ロストワン』で叫んだ本音は、もうSTPRみたいな大人の心まで動かしたんだ。学校での愛想笑いがどれだけ息苦しくても、お前の本当の価値は、もうこの100万人とプロの目が証明してる。お兄ちゃんは、恋白がどんな答えを選んでも、全力で支えるからね」
お兄ちゃんの言葉が、冷えかけた心にじんわりと染み渡る。
翌朝、私は再びブレザーの制服に身を包み、いつもの教室へ向かう。
相変わらずクラスメイトにノートを貸しては「ありがとう!」と言われ、完璧な愛想笑いを返した。
だけど、カバンの中のスマホには、STPRからのDMが眠っている。
私はただの都合のいい女子高生じゃない。
いつでもこの世界をひっくり返せる力を秘めた「りんね」なんだ。
胸の奥の防音ブースで、新しい歌のイントロが、かつてないほど激しく鳴り響き始めていた。