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作った答えは強がることと愛想笑いで。
おもち
--- **変化した日** ---
私の日常は、二つの歌の力で、文字通り「爆発的」に変貌を遂げた。
きっかけは、ボカロP・MIMIさんの名曲**『今はいいんだよ。』**の歌ってみた動画を投稿したことだった。
優しく、だけどどこか切ないそのメロディに、私は学校生活で押し殺していたリアルな息苦しさを、祈るようにして全部乗せた。
強がることも、愛想笑いを浮かべることもやめたい。
そんな私の「裏側の本音」が、ネットの海の誰かの琴線に触れたのかもしれない。
動画は瞬く間に拡散され、これまで10万人だったチャンネル登録者数は、あっという間に60万人へと跳ね上がった。
「恋白、すごいじゃん! スマホ、通知で爆発しそうだよ」
リビングで真白お兄ちゃんが、自分のことのように目を輝かせて画面を見せてくれた。
「う、うん……。何が起きてるのか、自分でも全然追いつけなくて……」
嬉しさと同時に、急に大きくなった数字への恐怖が押し寄せる。
だけど、私の進撃はそこでは終わらなかった。
次に投稿したのが、Neruさんの伝説的なボカロ曲**『ロストワンの号哭』**の歌ってみただった。
『黒板のこの漢字が読めますか あの子の心象は読めますか』
まさに、高校という窮屈な教室の中で、愛想笑いの仮面を貼り付けて生きている私のための歌だった。
真白が用意してくれた防音ブースの中で、私は文字通り、魂を削るようにして叫んだ。
学校での「七五三掛恋白」としての歪みを、すべて「りんね」の咆哮に変えてマイクにぶつけた。
その叫びは、1作目を遥かに凌ぐ勢いで世界中へ響き渡った。
急上昇ランキングの1位を独走し、再生回数のカウンターは見たこともない速度で回り続ける。
そして、ついにその瞬間が訪れた。
画面に表示されたチャンネル登録者数は、「1,000,000人」。
まさかの100万人超えを達成したのだ。
「100万人……。嘘、でしょ……」
自分の部屋で、私はベッドの上に座り込んだまま呆然とスマホを見つめていた。
16歳の普通の女子高生が、顔も名前も隠したまま、日本の人口の100人に1人が知っているような存在になってしまった。
手の震えが止まらない。
コンコン、と部屋のドアが優しくノックされ、真白が入ってきた。
その手には、コンビニで買ってきた小さなショートケーキが二つ握られている。
「恋白、100万人おめでとう。……本当に、遠くまで行ったね」
真白お兄ちゃんは、少しだけ寂しそうに、だけど誰よりも誇らしそうな愛おしい笑顔を浮かべて、私の頭を撫でてくれた。
ネットの世界で「りんね」がどれだけ巨大な存在になっても、お兄ちゃんだけは私の本質を見てくれている。その事実に、私の張り詰めていた心がすっと軽くなった。
だけど、ネットがこれだけお祭り騒ぎになっている一方で、翌朝の現実は何も変わらない。
私はまた、ブレザーの制服に身を包み、憂鬱な足取りで学校の門をくぐらなければならなかった。
クラスのあちこちから、楽しげな話し声が聞こえてくる。
「ねえ、昨日『りんね』の新曲聴いた!?100万人いっててマジヤバいんだけど!」
「聴いた聴いた! 鳥肌たったわ。あの人、マジで天才すぎるよね」
まさか、その「りんね」が、すぐ隣の席で俯いて教科書を開いている、地味で大人しい七五三掛恋白だなんて、誰も思いもしない。
「あ、七五三掛さんおはよう! 昨日のノート、ちょっと見せてもらってもいい?」
「あ、うん!おはよう。全然いいよ、はい」
私はいつものように、完璧な角度の愛想笑いを浮かべてノートを手渡す。
100万人のファンを熱狂させる歌姫は、リアルではやっぱり、ただの都合のいい女子高生として強がっていた。
けれど、私の心の中の何かが、確実に変わり始めていた。
差し出し続けた「作った答え」の裏側で、100万人の味方を得た私の歌声が、今にも教室の静寂を切り裂いて響き出しそうなくらい、激しく脈打っていた。