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大晦日、僕はマンションの一室の玄関扉の前に立ってインターホンを鳴らした。
今は夜の10時。辺りは暗く、街灯の弱々しい光が道を照らしている。
周りを囲む家からは家族で楽しそうに話す声が聞こえてくる。家族で年越しを迎えるのだろう。
数秒後、機械越しの、くぐもった声が聞こえた。
「はーい、結?」
「うん」
「あ、今開けるね!」
しばらく待っていると、家の中からバタバタという足音が聞こえてきて、次の瞬間目の前の扉が開いた。
扉の奥から顔をのぞかせた華菜は、僕の顔を見るなり満面の笑みを浮かべた。
「結~!」
華菜は明るい声で僕の名前を呼ぶと、勢いよく飛びついてきた。
僕をぎゅーっと抱きしめる華菜に、思わず笑みが溢れた。
「華菜、元気すぎ。とりあえず中入ろうよ」
「そうだね~!」
僕は華菜を促してリビングへと向かった。
華菜の家に来るのは3回目なので、家のつくりはだいたい把握している。
リビングに着くと、ここに来る途中で買ってきたものをテーブルの上に並べた。
年越しの時に食べるそばとうどん。僕はうどん派だが、華菜はそばがいいらしい。ちなみにどちらもカップ麺だ。
朝7時ぐらいまで華菜と一緒に過ごす予定なので、お腹が空いたときに食べられる軽食の類。
そして、バースデーケーキ。
年が変わって迎える1月1日は、華菜の誕生日なのだ。
ケーキは華菜の好きなチョコレートケーキ。
僕的には少し高かったが、今日まで貯金を頑張って、なんとか買うことができた。
「ケーキ!!」
華菜は目の前のケーキを見つめて目を輝かせている。
そのあまりの可愛さに、思わず頬が緩んでしまう。
「ケーキは冷蔵庫に入れとくね」
「うん!」
冷蔵庫の空いていたスペースにケーキを入れた後、僕は飲み物を用意してリビングのソファに座った。
華菜は僕の隣に座ってお菓子を食べ始めた。
「ちょっと…今お菓子食べて大丈夫なの?年越しそば、食べれる?」
「大丈夫~!ふふっ」
「ったくもう、可愛いな」
僕はそう言うと、華菜の頭を撫でて頬にキスをした。華菜は嬉しそうに目を細めている。
それから約1時間半、僕たちは他愛のない話をして過ごした。
いつも以上に華菜のテンションが高くて、リビングの中は華菜の笑い声で満ちていた。
華菜がお菓子をバクバク食べているのを最初は注意していたけど、結局僕も一緒にチョコレートを食べた。
年越しまで10分を切ったところで、リビングからキッチンへと向かい、2人で年越しそばの準備をした。華菜がお湯を盛大にこぼした時は大慌てしたけど、なんとか作り終えることができた。
僕が2人分をリビングのテーブルに運び、2人並んでソファに座った。
そのままそばとうどんを食べ始める。
途中で一口ずつ分けあったりもしながら5分程度で食べ終わった。お菓子も食べていたからか、さすがに満腹だ。
「年越しの瞬間はやっぱりあれですか?」
「うん、そうだね」
華菜がテレビをつけて、チャンネルを切り替える。
テレビの中では、大勢のアーティストたちがステージに集まっている。
時間を見ると、年越しまで残り1分を示していた。
「いよいよだね!」
「うん」
テレビ画面に表示されるカウントダウンに合わせて、僕と華菜も一緒にカウントダウンをした。
3、
2、
1、
「あけおめ~!」
華菜は弾んだ声でそう言うと、隣に座る僕を押し倒さんばかりの勢いで抱きついてきた。
「わっ!もう華菜~!」
僕も華菜を抱きしめ返す。この瞬間を華菜と迎えられたのが嬉しくて、自然と笑顔になる。
2人で強く抱きしめあって、お互いの喜びを確かめ合った。
「華菜、誕生日おめでとう」
僕が華菜の顔を見つめてそう言うと、華菜はクスッと笑った。
「ふふっ、あけおめじゃなくて?」
華菜の言葉に、僕も思わず笑ってしまう。
「それもそうだけど。それよりも華菜の誕生日の方が大事だから」
そこで一度言葉を切り、改めて口を開いた。
「この日を一緒に迎えられてよかった」
僕がそう言うと、華菜は顔を下に向けた。
数秒後、顔を上げてニコッと笑った華菜。
その頬は濡れていて、目からは止めどなく涙が溢れ出していた。
「うん、私も。……結、大好きだよ」
華菜の言葉で、僕の目からも涙が溢れ出した。
何度も頷きながら、ぐしゃぐしゃになっているであろう顔で笑って、僕の想いを言葉にして伝える。
「僕も大好き。…ずっと、一緒にいようね」
華菜はさらに明るく笑って大きく頷いた。
2人でしっかりと抱きしめあった。
耳元で小さく聞こえる泣き声が、華菜の温もりが、僕を抱きしめる腕の力が、華菜のすべてが愛おしかった。
華菜と一緒に笑いあえるのが、すごく幸せだった。