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僕たちが教室に戻るとすぐに5限目の授業が始まった。
5限目は、朝のホームルームで予告されていた通り、修学旅行の事前学習だった。
「班は決めておいたか?」
木元先生がクラスを見渡してそう言った。
ほとんどのクラスメイト達は、それぞれの友人と一緒の班になることを決めているようだった。
しかし僕は、何も決めていない。この時間になるまで完全に忘れていた。
「ほぼ決まってるみたいだな。決まってない人手挙げてー」
僕は静かに手を挙げる。
周りを見ると、|英美《えみ》が手を挙げているのが目に入った。
そういえば英美からもこの事について何も言われなかった。英美も忘れていたんだろうか。
そして意外にも、|南奈桜《みなみなお》も手を挙げていた。
てっきり友人たちと一緒に班を作っているものと思っていたのだが。
それこそ|夕月華菜《ゆうづきはな》と…
そこまで考えたところで、夕月華菜の不在に気が付いた。
あの時保健室に向かってからまだ戻ってきていないようだ。
木元先生も夕月華菜がいないことに気付いたのか、僅かに眉を上げた。
「南さん、夕月さんはどうした?」
「保健室に行ってます。たぶん華菜も、班決まってません」
「そうか」
木元先生は一度考えるようなそぶりを見せた後、口を開いた。
「じゃあ、今残っている人で班を作ったら?」
木元先生の言葉を聞いて、英美がこちらを向いた。僕は頷いて賛成の意思表示をする。
南奈桜の方を見ると、彼女もこちらを見ていて、「私はいいけど」と言った。
「先生、それで大丈夫です!」
英美が代表して木元先生に答えてくれた。
「よし!じゃあ後の時間は自由時間ってことでー」
それから僕は授業が終わるまで、英美と南奈桜と3人で話した。
と言っても、ほとんど僕と英美が話していたのだが。
南奈桜はずっと上の空で、窓の外を眺めていた。
5限目が終わり、6限目の授業も無事に終わった。
帰りのホームルームもいつも通り5分程度で終わり、下校時間になった。
その時になってもまだ、夕月華菜は教室に戻ってこなかった。
気になった僕は、南奈桜に声をかけた。
「南さん。夕月さんどうしたか知ってる?」
「知らない。保健室にいるんじゃないの」
「……ねぇ、夕月さんと何かあったの?」
僕がそう聞くと、南奈桜は一瞬驚いた顔で僕を見つめたが、すぐに顔をそらした。
「あなたには関係ないでしょ」
そう言うと、南奈桜は足早に教室を出て行った。
「結!」
後ろから突然声をかけられ、僕は驚いて肩をビクリと震わせた。
「びっ…くりした。なに?」
「なに?じゃないよ! 今日、夕月さんと一緒に帰るんじゃないの?」
「あぁ、そうなんだけどさ。戻ってきてないから…」
「うーん…保健室に行くって言ってたよね。行ってみたら? あ、私もう部活行かなきゃ! また明日ね~!」
「あ、うん。また明日」
英美が去ってすぐ、僕はバッグを持って教室を出て、そのまま保健室に向かった。
保健室に着くと、ドアをノックする。
「どうぞ~」
先生の声を聞いて僕はゆっくりとドアを開ける。
保健室の、春吉理恵先生は、僕の顔を見るなり顔を|綻《ほころ》ばせた。
「結さんか。最近来てないから心配してたけど、元気そうだね」
「はい。まぁ、なんとか元気にやってます」
僕がそう言うと、春吉先生は優しく微笑んだ。
「ふふっ…で、今日はどうしたの?」
「えっと…夕月さん、いませんか?」
「華菜ちゃんならさっき帰ったけど。何かあったの?」
「いえ、何も。…いないんだったら大丈夫です。ありがとうございました」
「うん。じゃあまたね~」
僕は春吉先生の声を背中に受けながら保健室を後にした。
昇降口に行って夕月華菜の靴がないことを確認する。
夕月華菜から誘っておいて当の本人が先に帰ってしまったことを少し疑問に思いながらも、僕はそのまま下校した。