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一番最初に|夕月華菜《ゆうづきはな》と話した時から一か月が経ち、10月に入った。
今僕は、6限目の授業で、|英美《えみ》と夕月華菜と|南奈桜《みなみなお》と共に、修学旅行に向けた話し合いをしている。
今年の修学旅行は関東に行く予定。
1日目は横浜に行って、2日目は夢の国に行く。3日目には東京の観光地を巡って、最後に羽田空港でお土産などを買う、というものだ。
「で、2日目はどうする?」
班長である南奈桜の言葉に、夕月華菜が真っ先に手を挙げる。
「はい!どのアトラクションに乗るか決めようよ!」
「…うん、そうだね。決めといた方が効率的に動けるしね」
僕は夕月華菜と南奈桜のやりとりを眺めながら、心が落ち着くのを感じていた。
2人は少し前に喧嘩をして、しばらくの間距離を置いて過ごしていた。
それがある時から、以前と同じように仲睦まじく笑いあうようになった。
2人が仲直りできたみたいでよかった。僕は心の底からそう思っていた。
「結は?」
「え?」
突然、英美に話を振られて動揺してしまう。僕がぼんやりしていただけで突然ではなかったのだろうが。
「え、えっと…何の話だっけ?」
僕がそう言うと、一瞬の沈黙の後、夕月華菜があははっと笑った。
「ちょっと~、ちゃんと聞いててよね~!」
「結、ここでどのアトラクションに乗りたいかって話だよ!」
英美が教えてくれて、ようやく何の話をしていたのかを理解した。
机の上に置いてあったパンフレットを手に取って確認する。
夢の国なんて行ったことがなくて、どんなアトラクションがあるのかすら知らない。とりあえず有名なものを答えておいた。滝壺に落下してびしょ濡れになるやつだ。
その後、僕以外の3人がいくつかのアトラクションを挙げた。どれも僕の知らないものでよくわからなかったけど、とりあえず全部賛成しておいた。
昼食の場所やお土産を買う店などを決めて、ディズニーでの予定をまとめ終わったとき、チャイムが鳴った。
教室内を回りながら何人かに声をかけていた木元先生は、チャイムを聞いて黒板の前まで戻ってクラス全体に声をかけた。
「明日も同じことをするから今日決めた内容を忘れないように~。日直挨拶して~」
木元先生の言葉の後、日直の号令で授業が終わった。
帰りのホームルームが始まるまで何をして時間をつぶそうか迷っていると、英美が話しかけてきた。
英美は僕の顔と数センチの距離まで近づき、小声で言った。
「結ってさ、夕月さんのこと好きなの?」
そう聞かれて僕はため息を吐いた。
少し前に「南さんのこと好きなの?」と聞いてきたばかりなのに、今度は夕月華菜が好きだと思っているらしい。
「だから、そんなわけないって。夕月さんはただの友達だから」
僕はいつも通りの声色でそう答えた。
だけどそう答えると同時に、心に僅かな違和感があるのを感じた。
そしてなぜか鼓動が速まっていくのに気付いた。
英美は僕から離れると、落胆したような顔をして声を上げた。
「え~そうなの? さっきも夕月さんをじーっと見つめてたのに?」
「いや、見つめてないから。…っていうか英美ってそんなに恋バナ好きだったっけ?」
僕がそう言うと、英美は照れくさそうに笑った。
「恋バナはそこまで好きじゃない。でも、…結が恋してるなら応援したいな~って」
英美の言葉を聞いて、僕は思わずクスッと笑った。
「ありがとう、英美。好きな人できたら教えるよ」
「ほんと!? 一番最初に教えてね! 絶対だよ!」
「ふふっ、はいはい」
英美が自分の席に戻っていくと、僕は自分の心の変化について考え始めた。
夕月さんを好きではないと答えたときの僅かな違和感、不自然に速まる鼓動。
どちらも経験したことのないもので、なぜそうなったのかはどれだけ考えてもわからない。
夕月華菜のことは好きだが、それは友人として好きというだけ。
……と思い込んでいるのかもしれない。
だけど、この気持ちがもし恋であっても、恋なんてものとは無縁の人生を歩んできた僕には判断できない。
しばらく考えたが何もわからなかったので、僕は考えることをやめた。