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「…う~ゆう~」
「ん…」
ゆっくりと目を開けると、僕の顔を覗き込む華菜と目が合った。どうやらいつの間にか眠っていたようだ。眠気がすっかりなくなっていた。
「着いたよ」
「うん」
寝ぼけ眼をこすりながらリュックを背負う。
「おはよう、結さん。…夜だけど」
「おはようございます。…夜ですね」
飛行機の窓からは、陽が落ちて暗くなった空が見える。
空港から出ると、僕は「うーん」と大きく伸びをした。すると、隣から小さな笑い声が聞こえた。
「ふふっ。私と同じことしてる」
そういえば、東京について空港から出たとき、華菜も同じことをしていたような。思い出して、笑みがこぼれた。
「よし。とりあえず家に行こうか。あ、俺の家な」
「びっくりした。いきなり戻らされるかと思った」
駿さんはしっかりしているようで少し抜けているところもあって、そんなところがかわいらしい。
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地下鉄で移動すること1時間。
久しぶりの地元の地下鉄、地元の空気感は、僕の心を落ち着かせてくれた。
駅から数分歩いて到着した駿さんの家は、東京とは違ってマンションの一室だった。
「ここはちょっと狭いかも。ごめんね」
「いえ、大丈夫です」
僕はすぐに自分の家に戻ろうと思ったのだが、駿さんに誘われるままに少しだけお邪魔することにした。
リビングに案内されて革製のソファに座る。とても座り心地がよくて気持ちよかった。
僕と華菜が席についたことを確認すると、駿さんは真面目な顔で話し始めた。
「俺、今から華凛の家に行って話してくるけど、2人はどうする?」
「私はここにいるけど、そしたら1人になる?‥‥結、」
「あ、じゃあ駿さんが戻ってくるまでここにいます」
「そっか。ありがとう、結さん」
駿さんは小さなバッグに最低限の荷物を入れて、すぐに玄関に向かった。
昔のことを思い出したのか不安そうな顔をした華菜を見て、駿さんは優しく微笑んで「大丈夫。ちゃんと戻ってくるよ」と言って家を出て行った。
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華菜と並んでソファに座る。しばらく2人してぼーっとしていたけど、華菜は何かを思い出したようにぱっと立ち上がってリュックを漁り始めた。中から何かを取り出して戻ってくる。華菜の手にはスマホが握られていた。
「奈桜のメッセずーっと無視してたから返信しないと」
「あー、僕も英美に返事しないと。…ぜっったい怒ってる」
ズボンのポケットからスマホを取り出して電源を入れる。起動するとすぐに、メッセージの通知が何件も届いた。ほとんどが英美からのメッセージで、読んで返信するのに時間がかかりそうだったので後回しにする。他は母親と南さん、そして……元カレからのものだった。
母親からのものは単なる連絡事項だったので、スタンプだけを返した。
南さんからのものは、「華菜を泣かせたら許さないからね」というメッセージ。歌舞伎町で泣かせてしまったものの、付き合ったのでプラマイゼロだろうと考え、「大丈夫」というスタンプを送信した。
華菜に南さんからのメッセージを見せると、「奈桜は私のこと大好きだな~」と言って笑っていた。
華菜には、心配するメッセージが何件も届いていて、南さんが華菜を大切に思っていることが伝わってきた。
英美からは合計20件のメッセージが届いていた。要約すると、「無視するなんてひどい! いつ帰ってくるの? 夕月さんとはどうなった?」というもの。僕は、簡単に一文にまとめて「ごめん。今日帰ってきました。無事付き合いました」と返信した。
残ったのは元カレからのメッセージ。
「俺が悪かった。もう一回やりなおそう」という内容だった。
そのメッセージをじっと見つめていると、華菜から声をかけられた。
「どうしたの? すっごい険しい顔してるけど。なんかあった?」
どうやら無意識に険しい表情になっていたみたいで、華菜が心配げな顔で僕を見つめてくる。
僕はスマホの画面を閉じて、「大丈夫だよ」と答えた。
しばらくして駿さんが帰ってきた。
華菜の母親と話し合って、親権を駿さんに譲ること、華菜とはもう会わないことを約束してくれたそうだ。それに関する手続きは後日、ということになったらしい。
華菜は安心したように深く息を吐いて、ソファに倒れこんだ。
その後すぐに寝息を立て始めた華菜に、僕と駿さんは2人で小さく笑いあった。
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僕は自分の家に帰りつくと、すぐにベッドにダイブした。
明日からは普通に学校に行くつもりだが、今はその準備をする余裕もないくらいに疲れ果てている。
準備は明日に回して、とりあえず今日はご飯とお風呂だけ済ませて寝ることにした。
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翌日。
僕が教室に入ると、近くのクラスメイトたちと話していた英美が、机の間を通り抜けて僕のもとへ走ってきた。教室のドアの前で捕まって僕の席へと連行される。
僕が教科書やノートの準備をし始めると、英美は1つ前の席にどかっと座って、頬をふくらませて僕をじっと見つめてきた。怒っているのだろうが全く怖くなく、逆にいつも以上に可愛くなっている。
「なに?」
「なに?じゃないよ! 私と奈桜がどんだけ心配したと思ってんの!? 大変だったんだろうけどさ、メッセ無視するのはひどくない!? ね~え~!」
「ごめんね。急に決まって、向こうついてからも色々忙しかったんだよ。‥‥てか、ん? "奈桜"…?」
「あ…」
僕が言うと、英美は気まずそうに顔をそらした。「やってしまった…」という顔をしているのが面白くて、僕は「ん?どした?英美?」と英美をからかう。
「もう…。2人がいない間、こっちではなんにもなかったと思う?」
「え、それって…」
「‥‥奈桜と、付き合うことになりました」
「え~! おめでと~! そこくっついちゃうか! はぁ~」
「私のことなんてどうでもいいから! 結も夕月さんと付き合ったんでしょ! やったじゃん!」
頬をほんのり紅く染めて早口でまくし立てる英美。照れ隠しで早口になっているとわかって、僕は思わず吹き出した。
「ぷっ照れちゃって~。付き合ったよ、相談した2日後にね」
「よかったね。頑張ったじゃん。よしよし」
英美はそう言って、僕の頭を撫でてくれる。僕は英美のこういう優しいところが大好きだ。‥‥もちろん、友達として。
英美と2人で話していると、南奈桜が近づいてきた。いつも僕を睨んできていたのに、今日は穏やかな表情をしている。
「奈桜~。結、夕月さんと付き合ってるって!」
「うん、知ってる。華菜から聞いた。‥‥私たちも付き合ってるから」
「うん、英美から聞いたよ」
英美は南奈桜が来てから一段とニコニコになっている。南奈桜もどこか嬉しそうだ。
「私嫉妬深いから、あんまり英美と話さないでね? で、華菜を泣かせたら…ね?」
「はい、わかってます」
「こらこら、奈桜~?」
「はいはい、結には優しく、ね。‥‥で、華菜は?」
「うーん…今日は来ないかもなぁ」
そう言って周りを見渡していると、教室のドアがガラッと開いた。そこからニコニコ笑顔の華菜が教室に入ってきた。久しぶりの華菜の姿に気付いたクラスメイトたちが、「おはよ~」「久しぶり!」「元気だった?」などと声をかけている。それにひとつひとつ答えながら、華菜は僕たち3人のもとへと向かってきた。
そのまま華菜は僕に抱きつく。いわゆるバックハグだ。
「結、おはよ」
「ん。おはよう」
「はいそこー! イチャイチャしてないで、私たちに言うことは?」
南奈桜の言葉に、華菜は数秒僕の顔を見つめた後、声を上げた。
「久しぶり!」
「違うよ! まぁいいけどさ。…で、私と英美、付き合い始めたから」
南奈桜がそう言うと、華菜は僕から離れて南奈桜に詰め寄った。
「え、どういうこと!? 聞いてない! え、英美ちゃんほんと!?」
「ほんとだよ」
「え~おめでと~!」
キーンコーンカーンコーン
4人で話していると、朝のホームルームの始まりのチャイムが鳴った。僕以外の3人や他のクラスメイトたちが自分の席へと戻っていく。
数秒後、教室に担任の木元先生が入ってきて、ホームルームが始まった。
久しぶりに4人で集まることができて、いつもと変わらず普通に話すことができて良かった。それぞれの関係性は変わったけれど、全てがいい方向に変わっていてただただ嬉しかった。
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クリスマスには華菜の家に集まって、駿さんも含めた5人でクリスマスパーティーをした。
プレゼントの交換では、華菜にクリスマス仕様のスノードームをあげて、華菜からは三日月形のテーブルライトを貰った。
英美は南奈桜にブックカバーを、南奈桜は英美に星柄のマフラーを、それぞれプレゼントした。
駿さんは、全員に四つ葉のクローバーのキーホルダーをプレゼントしてくれた。
駿さんに華菜のことを聞くと、色々な手続きもすべて終わって、これからは落ち着いて過ごせるだろうと言ってくれた。「華菜のこと、これからもよろしくね」と言われ、僕は華菜をずっと傍で見守り続けることを誓った。
今まで以上に沢山の出来事があった一年が、もうすぐ終わる。