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**|華菜《はな》side**
部屋から出て、近くの自動販売機に向かう。
ガタンと音を立てて落ちてきた飲み物を取り出す。
その時、後ろから誰かに声をかけられた。
後ろを振り向くと、真剣な顔をした|奈桜《なお》がいた。
「奈桜。飲み物買いに来たの?」
「‥‥ううん。華菜に話があってさ。ちょっと、いい?」
「うん、いいけど」
私の返事を聞いてから、奈桜は近くのベンチに歩いていった。
奈桜が座った隣に私も座る。私が隣に来ると、奈桜は私の方を向いて口を開いた。
「あのさ…。華菜に、伝えたいことがあるの」
「伝えたいこと? うん、なに?」
奈桜は緊張しているのか、表情が硬い。
奈桜は一度深呼吸をした後、ゆっくりと話し出した。
「私ね、華菜とずっと一緒にいて、いつからか華菜を誰にもとられたくないって思うようになったの。最初はね、友達として独占したいだけだと思ってたんだ。だけど、…私、本気で華菜を好きになってた。華菜に恋してたの」
奈桜はそこで一度言葉を切って、少しの間の後に次の言葉を紡いだ。
「華菜、私と付き合ってくれませんか…?」
奈桜の衝撃の告白に、私は数秒間反応することができなかった。
しばらくして脳が思考を取り戻し、奈桜の言葉の意味を考え始める。
奈桜が私のことを…。奈桜と私が付き合うなんてことあるの…?
そこまで考えたところで、なぜか頭に浮かんだ|結《ゆう》さんの顔。
困ったように笑って私の名前を呼ぶ結さんに、私の胸は締め付けられた。
いくつも浮かぶ結さんの顔は、どれも困ったような笑顔で、その笑顔を見るたびに心臓の鼓動が速くなっていった。
その時間で、私は自分の気持ちに気付いた。
私は、私は‥‥
「奈桜、ごめん」
そう言って、私は奈桜に向かって頭を下げた。
数秒後、静かに、奈桜の声が聞こえた。
「華菜、顔上げて」
私が顔を上げると、奈桜は目に涙を浮かべて微笑んだ。
「ありがとう。華菜は、結が好きなんでしょ、知ってたよ。ずっと華菜のこと見てたからさ、ちょっと前から気づいてたんだ。結に負けるのは悔しいけど、華菜には本当に好きな人と一緒にいてほしいから、潔く諦めます。これからも、友達、として、…よろしくね」
そう言って泣き出してしまった奈桜を、私は強く抱きしめた。奈桜が泣き止むまで。
「もういいよ。先に戻ってて」
「うん」
奈桜を1人にしてもいいのか迷ったけど、奈桜はこれで挫けるような人じゃないということを私は知っていた。
部屋へと戻る道の途中に誰かがいた気がしたけど、姿が見えなかったので、それ以上は気にせずに部屋に戻った。
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**結side**
修学旅行2日目。
一日かけて夢の国でいろんなアトラクションに乗って楽しんだ。
他の3人も楽しんでいるように見えたが、僕は少し雰囲気がおかしかったように感じた。
夕月華菜と南奈桜はいつも通りじゃれあっていたけど、やり取りがぎこちない部分が目についた。
|英美《えみ》に至っては終始暗い顔をしていた。テーマパークは大好きなはずなのに。
僕は気になって、消灯時間までの自由時間で、英美にどうしたのか聞いてみることにした。
「英美、ちょっと聞きたいんだけど」
「うん、なに?」
「英美、今日なんか元気ないけど、何かあった?」
僕がそう尋ねると、英美は驚いたような顔をして僕の顔をじっと見つめた。
数秒後、英美は息をふっと吐くと、悲しそうに笑って口を開いた。
「失恋、したの」
「…失恋?」
「そう。私の好きな人がね、昨日、告白してるのを見ちゃって。だから、もう駄目だなぁって…」
僕は英美の答えを聞いて黙り込んでしまう。
英美の好きな人が誰なのか知らない僕には、何とも言いようがない。
だけど、1つだけ思うことがあった。
「ねぇ、英美。英美の好きな人の告白が成功したかはまだわからないんだからさ、諦めなくてもいいんじゃない?」
告白が失敗した可能性もあるのだから、これからアピールするのでも遅くはないはずだ。
「そっか、…そうだね。ありがとう、結!」
「うん」
恋愛経験のない僕でも英美を元気づける言葉を伝えることができてよかった。
「あのさ、ちょっといい?」
僕がベッドの上で小説を読んでいると、南奈桜に声をかけられた。
「うん、いいけど」
僕が答えるとすぐに、南奈桜は部屋を出て行った。僕は慌ててその後を追う。
南奈桜は、自動販売機近くのベンチに座っていた。
僕は少しだけ間をあけて南奈桜の隣に座った。
「昨日、華菜に告白した」
「…え?」
急な発言に、僕は驚いてしまう。
南奈桜が夕月華菜のことを好きなのは前から気づいていたから、「告白した」という部分には違和感はなかった。
でもなぜ、南奈桜はそのことを僕に伝えてきたのか。それが全く見当もつかなかった。
「なんで僕に…?」
「告白したところには反応しないんだ」
「あ、まぁ、うん。前から気づいてはいたから」
「そっか。うーん、なんで‥‥なんでだろうね? あのさ、結。結って華菜のこと好きだよね?」
「好き…なのかな?」
僕は夕月華菜のことが好きなのか。
確かに友達として彼女のことは好きだが、それが恋愛感情なのかはわからない。
ふと脳裏に浮かんだ、夕月華菜の太陽のように明るい笑顔。その笑顔に、なぜか僕の胸は苦しくなった。心臓の鼓動が速くなっていく感覚がする。
後から考えれば、この時にはすでに僕は夕月華菜のことが好きになっていたんだとわかる。
だけどこの時の僕は、恋というものが全く理解できていなくて、好きとも嫌いとも言えなかった。
「わかんないの? 私から見たらめっちゃ好きになってると思うよ、ムカつくけど」
「…」
何も言わない僕を見て、南奈桜は呆れたようにため息を吐き、立ち上がった。
「私、振られたからさ。華菜は結にあげるよ。その代わり…、華菜を泣かせたら許さないから」
「…うん」
「はぁ。まぁ、自分の気持ちがはっきりしたら頑張りなさい」
「はい」
僕の返事を聞いて、南奈桜は僕たちの部屋に戻っていった。
1人残った僕は、自分の気持ちについて考えた。
考えた結果、今の僕には何も分からないということが分かった。
その日は考え込んでしまって一睡もできなかった。